ジャスコフィクション―映画における地方の郊外化と若者:『リリイ・シュシュのすべて』『下妻物語』



ファスト風土化する日本―郊外化とその病理 (新書y)

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 三浦展ファスト風土化する日本―郊外化とその病理』(洋泉社文庫、2004年9月)は、現代を象徴する少年犯罪事件が佐賀や長崎など地方で起こっていることに注目し、理由として地方に郊外型大型店(イオングループなど)が進出することによって、商店街が軒並み立ち行かなくなり、結果として地域社会が解体されてしまっていることを挙げている。
 いまや日本全国どの町に行っても町の景色はほぼ同じであり、地方の町からは個性が失われ、均質化している(均質化については、「マクドナルド化」とも言われている。「ファスト風土」は、マクドナルドなどをさす「ファストフード」という言葉のダジャレから作られた三浦の造語。完璧なオヤジギャグで、ちょっとどうかと思う)。
 TVや雑誌を通じて日本全国に情報が行き渡っているので、地方に住む人間も東京に住む人間もまったく変わらないライフスタイル、そして商品を求めている。周囲は田んぼばかりという環境の土地に、高級ブランド品を求める若者が住んでいる、という状況になっている。いまや消費の中心は地方であり、地方の人々の感性が日本全体の感性をリードしているとさえ言える。ヤマダ電気ユニクロ洋服の青山などは、いずれも地方で起業し全国にチェーン展開した企業である。
 しかし、全国チェーン店展開している大企業に頼っている状態では、地域社会は解体される一方だ。大型店舗が進出し、商店街が軒並み解体され尽くした後で、赤字を理由に閉店・撤退してしまうと、後には不毛の荒野となった廃村だけが残される。また、進出した時点で、大型店舗を誘致できた町は栄えるが、周辺の町は干上がるということも起こる。


リリイ・シュシュのすべて 通常版 [DVD]

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 『リリイ・シュシュのすべて』(2001年、監督岩井俊二、出演市原隼人忍成修吾蒼井優)は、こういう地域で暮らす若者がどんな風に生きているか、ということを描いた映画だ。
 扉を開ければ外には田園風景が広がる土地で(作中では特定の地名を挙げていない)、学校では狭い人間関係の中でイジメたりイジメられたり、不毛なコミュニケーションの中にいるのだけど、内面的には、崇高で純粋なイメージを持つカリスマ的なアーティストに憧れており、ネットではファンサイトを開設して、閲覧者との間で内的に豊かなコミュニケーションを持っている。
 冒頭では、主人公の少年の家が晩ご飯を食べている居間のTVで、2000年に佐賀県で起こった実際に起こったバスジャック事件(ネオ麦茶事件)のニュース映像が流れており、この映画は、こうした地方の空洞化とそこに生きる若者の生の不毛さを主題とするのだ、ということを明示している。


 実はぼくの地元は、東北地方の中でもとりわけイオングループの出店が盛んであり、「イオングループ、ありがとう!」という県なので、郊外化した町の感じというのはよくわかる。地元の新聞で、郊外型大型店が辺境の地域に出店し、商店街を潰した挙げ句に撤退して、これから地域はどうするのかと対策に苦慮しているという記事を読んだこともあるし。
 そういう町がどういう雰囲気かというと、町に本当に何もなくて、人と人が繋がるチャンスが完全に奪われている感じなのだ。内面的には都会化しており、都市的な個人主義だったり繊細な感受性だったりマニアックな知識や教養だったりを持っているにもかかわらず、そういう内面を持つ若者を受け止められる受け皿となるような場所がないのだ。仮にネットで仲間を作ってもオフ会には行けないし、気の合う仲間と定期的にオフで会うということができない。(お金があれば別だけれども、お金がないからネットばかりやってるわけだし)。
 なので、地方在住のニートや引きこもりが、自宅に引きこもってネットばかりしているのはよくわかる。町はあまりにも狭くて、自意識の大きさに対して町が小さすぎるのだ。(個人的には仙台くらいの大きさが丁度よくて、東京や大阪、名古屋は、逆に広すぎると感じる)。


下妻物語 スタンダード・エディション [DVD]

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 このエントリはこれで終わっていて、「では、どうしたらいいのか?」というアイデアを提出できるわけではないのだけど(三浦の地域社会復興のアイデアは空想的に思える。地域社会の人々が自分でできることを持ち寄り、コミュニティーを再生させるだなんて、もう後戻りなんかできないに決まっている)、もう一つ、地方の空洞化をテーマにした映画として、『下妻物語』(2004年、監督&脚本中島哲也、原作嶽本野ばら、出演土屋アンナ深田恭子)を紹介しておきたい。
 舞台は茨城県の下妻市なのだけど、この町もやはり周りに何もなく、ただひたすら田んぼが広がる土地である。そういう土地で、しかし深田恭子ゴスロリファッションにはまっていて、田んぼの真ん中を一直線に伸びているアスファルトの道路を、全身ピンクのゴスロリファッションで、日傘をさして歩いている。というわけで、この映画は典型的な「ファスト風土」映画である。
 で、これは、冒頭で紹介した、三浦展ファスト風土化する日本』に紹介されていたのだけど、この映画では、東京に行きたいという深田恭子に、母親が「ジャスコに行け。ジャスコに行けば何でもあるから」と答えるシーンがあるらしい。


 それで地方の郊外化を象徴する店としてジャスコが、この本の章タイトルにも挙げられているのだけど、この章を読みながら、以下に紹介する動画を思い出した。
 ……というか、実はこのエントリ自体この動画を紹介したいだけだったりするのだけど。


 チョコットダケ・ジャスコ



 地方では中高生のデートスポットがジャスコである、という。
 かわいい。




 附記:エントリのタイトルは、『パルコフィクション』(2002年、監督矢口史靖)より。渋谷パルコを舞台としたオムニバス映画で、パルコは東京を象徴している。ただし、矢口史靖は、『スウィング・ガールズ』(2004年)では、山形に住む田舎の女子高生をテーマに映画を撮っている。