長回し映像コレクション―『黒い罠』『ロープ』から「大砲の街」まで
先日、『ボーン・アルティメイタム』の感想メモをきわめてテキトーに書いてみたところ、はてなダイアリーの「おとなり日記」表示機能のリンクから5〜6人読みに来た読者がいたらしくて恐縮してしまったのだけど、というのは、元のblogの記事がボーン・シリーズが短いカットの積み重ねを特徴とすることが魅力であることを論じたもので、とても優れたものだったからだ。(映画のカット:スピード、緊迫感、不安感、爽快感@だいじょうぶだよ)
で、罪滅ぼしというわけでもないのだけど、その記事のコメント欄には、「映画のカット数なんて見方もあるんですね、新鮮でした」という声があったこともあり、このエントリでは、カット数が多い映画とは逆の、長回し(=1ショット1シーン)の映像で有名な映画を紹介してみようと思う。
オーソン・ウェルズ『黒い罠(Touch of Evil)』(1958)
3分18秒の長回し。クレーン撮影を利用し、街の様子を一望の下に映し出していく。ジャズのリズムに乗ったスタイリッシュな映像であることもあってか、ノックアウトされた映画ファンは数多く、後に続く多くの映画に影響を与えた。詳しくはこちら(黒い罠@素晴らしき哉、クラシック映画)
ブライアン・デ・パルマ『スネーク・アイズ(Snake Eyes)』(1998)
冒頭13分の長回し。冒頭は女性キャスターがボクシング会場の前で話している場面が、実は後ろに下がるとモニター映像だったという形で、1ショット1シーンが始まる。これは1ショット1シーンのテクニックとしては反則技ですねw 2分30秒あたりから、カメラは、ボクシング会場をうろつき回るニコラス・ケイジをずっと追っていく。
5分50秒のところでカットが変わり、そしてその直後に大きな事件が起こる。同時に音楽も入る。
アルフレッド・ヒッチコック『ロープ(Rope)』 (1948)
2分40秒のあたりから会話をするふたりを離れて、カメラは部屋の中をあちこちさまよい、部屋の様子を映し出す。冒頭の場面はこちら。カメラが切り替わると、突然ショッキングな出来事が映し出される。
『ロープ』は、全編80分を1ショット1シーンで繋げようと試みた実験作で、長回し@Wikiにも書かれているように、当時、「35ミリのフィルムのワン・リールは10分しかなかったため、繋ぎ目でそれとわからないような巧妙な編集を行っている」。具体的には、カメラが登場人物の背中に寄っていて、ついに背中に張りつき、一瞬画面がまっ暗になる。そこで現場では、「はい、カット!」となり、リールを交換したというわけなのだけど、こういう工夫はかわいくて好きですw 同じく長回し@Wikiには、「デジタルシネマではフィルム長の制限が無いため約10分という制約も無くなり、事実、アレクサンドル・ソクーロフの『エルミタージュ幻想』は96分全編がワンカットで撮影されている」とあるのだけど、こうなるとかわいげがない。
パーティーの場面では大勢の人が行き交う中でカメラが主人公を追いながら移動しつつ1ショット1シーンで撮っていくわけだけど、どこで人が出てくるとか計算し尽くしておかなければならないわけで、本番前に15日かけて入念なリハーサルが行われた。詳しくはこちら(「「ロープ」@素晴らしき哉、クラシック映画)。
ロバート・アルトマン『ザ・プレイヤー(The Player)』(1992)
冒頭から8分6秒の長回し。『黒い罠』の強い影響を受けているのがよくわかる。この映画はハリウッドを諷刺した映画業界の話で、冒頭では映画製作者たちが『黒い罠』や『ビギナーズ』の話をしているのだけど、当の会話を含む一連の冒頭の場面が長回しで撮られている。メタ的ですね。
大友克洋『大砲の街(Cannon Fodder)』(1995)
3本の短編中編で構成されるオムニバス映画『MEMORIES』で、総監督の大友克洋が自ら製作した作品。全編1ショット1シーンで、アニメでこれをやるのは、相当緻密な計算が必要だったと思われる。続きはこちら(その2、その3)。
長回しについて、長回しを多用した映画監督溝口健二は、「役者から緊張感のある演技を引き出すために使うのだ」と言っていたようだ。カット数を多くすると、現場では「はい、カット!」の連続になるわけで、役者は「いい演技を見せる」といった感じでもなくなってしまうわけで、そういう「感じ」というのは、編集でどれだけうまく繋いでも観客にも伝わるはずだ、という考え方は一理あるだろう。逆に小津安二郎は、やたらとカット数が多く、短い一台詞ごとにカットを割っていくような撮り方をしているわけだけど、役者を映画の素材として扱って、役者の演技というアウラに依存しない映画作りを行うという意味では、小津はアニメ作家的といえるように思う。
映画の魅力は、どこかで現実と繋がっているところにあるのではないかとぼくは思う。アニメの魅力は現実にはありえないどんな映像でも作れるところで、宮崎駿『天空の城ラピュタ』の魅力は、パズーの「落ちそうで落ちない」引力を無視したアクションシーンのスリルとカタルシスにある。なので、逆に映画は、「どこかで現実と繋がっている」という映画本来の魅力にいずれは立ち戻るべきだろう。CGやデジタル技術に頼って、「いままで見たことがない映像を見せる」映画もおもしろいのだけれど、『マトリックス』なんかを見てると、「でもこれって映画なのか?」という一抹の疑問というか不安感が、ぼく程度の映画ファンでもやはり沸くのだ。(『マトリックス・リローデッド』評@m@stervision。)
で、長回しというのは、基本的にはリアルさを求めるものなのだから、「大砲の街」を見てると、これを作るのはひどくたいへんだったろうということは十分認識しつつ、でも、「アニメは何でもできるのだから、どこまでも1ショット1シーンができるのは当たり前じゃん? なんでこんなコトやってるの?」とどこかで思ってしまうわけなのだけど、でも実際のところ、どうなのだろうか? このエントリで紹介した映像を見ていると、これらの長回しは溝口的な意味でのリアルさを求めるものというよりも、むしろ虚構的/アニメ的な想像力で作られているようにも思う。こんな映像が見てみたいっ! みたいなね。現実的な制約がある中でのチャレンジなので、やはり現実と繋がってはいると思うのだけど……
袋小路に入ってしまった。自分でも混乱している文章だと思うのだけど、アニメ/映画を研究している友人に意見を聞いてみたいと思うので、このまま残しておきます。
エドゥアルド・サンチェス&ダニエル・マイリック『ブレアウィッチ・プロジェクト(The Blair Witch Project)』(1999)
http://jp.youtube.com/watch?v=-BtqUrb63wU:MOVIE
現実をそのまま映し出すという意味でのリアルさを追求した結果、疑似ドキュメンタリーの手法が取られた例。行方不明になったサークルの子たちのうちのひとりがカメラを持っているという設定なので、カット割りという概念がなく、すべてのシーンが1ショット1シーンということになる。手ぶれがひどく、「あっ!あっちに何かあるっ!」ということになると、急にカメラが動くわけだけど、異常に見づらいので、映画を全部見終わった後、乗り物酔いのような状態になってしまった人は多いと思う。話題になった作品なのでかなり観客を動員していたのだけど、まあようは素人が作った作品を見せられたわけで、騙された観客は気の毒だった。おもしろくなかったですからね。
ただ、この後、『ブレアウィッチ』風の疑似ドキュメンタリー的な映像はリアルさを出すためによく使われるようになっていて、たとえば、ボーン・シリーズもそう。映像の粒子が粗く、カメラの動きに手ぶれがあることで、リアルさが表現されている。素人のアイデアを、プロが洗練させた手法といえよう。
以下、このエントリの論旨で触れられなかった、長回しで有名な映画を紹介。
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以下、参考リンク。
長回し@Wikipedia
Lesson 13 長回し@フィルムロジック
映画と長回し (1)@A Thousand Trees
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