NTT DoCoMo東北のCMシリーズ「澤田菜穂子もの」(出演宮崎あおい)について



 NTT DoCoMo東北のCMで宮崎あおいが出演しているシリーズは、おそらく日本のCMの歴史の中でも屈指の名作シリーズだと思うのだけど、これって全国で放送しているのだろうか? ずっと東北で暮らしている僕にとっては、宮崎あおいといえば、まず何よりもこのCMなのだけど、実は意外に知られていないのかもしれない。
 というわけで、このCMのシリーズを紹介してみたいのだけど、2001年以来、2008年1月の現時点で、宮崎あおいが出演しているCMは、実に30本。うち17本が、澤田菜穂子(宮崎あおい)という少女と彼女の家族が、離れた場所にいながら携帯電話で「繋がる」様子を描く作品となっている。(「澤田菜穂子」という名前はイマイチしっくりこないので、以下の文章では、「あおい」って呼びますw 理由は、2chのあおいスレでもうずっとそう呼ばれているからw)


 「見えない想い」篇(山形県飯豊町

 澤田菜穂子シリーズの一作目。山形に住む祖父(大泉逸郎)に、東京・六本木ヒルズ前にいるあおいが童謡「ふるさと」の歌詞を訊く。
 大泉逸郎は、山形県西村山郡河北町出身の演歌歌手で、1994年に自主制作した「孫」が、1999年から2000年にかけてロングセラーになった人物。


 「ストーブ列車」篇(青森県五所川原市

 津軽鉄道津軽鉄道線のストーブ列車に乗る兄の話を、幼いころ「月にはうさぎさんが住んでるんだよ」と騙された経験から信じようとしない東京・新宿前の妹あおいに、兄から動画が送られる(津軽鉄道株式会社)。
 あおいが「兄」と話してると、思わず、映画『ユリイカ』(監督青山真治、2000年)で海に入ったあおいが「お兄ちゃん、梢、海にいるよ」と心の中で呼びかけるシーンを思い出してしまうんですがw 子ども時代がかわいいですねw


 「同級生」篇(宮城県登米町―現登米市

 自分が卒業した小学校(旧登米高等尋常小学校@文化遺産オンライン)に訪れた祖母から、あおいに動画が送られる。


 「母の故郷」篇(岩手県遠野市

 あおいの母は、柳田国男遠野物語」で知られる遠野出身だった(遠野市観光協会)。遠野を訪れたあおいは、東京にいる母親に「懐かしいでしょ?」と動画を送る。何度も河童河童いってるので、心なしあおいも河童に見えるw 童顔だし。


 「父の出張」篇(秋田県角館町―現仙北市

 角館に訪れた旅行ライターの父が、人力車に乗りながら映した動画を、東京のあおいに送る(角館町観光協会)。角館は三回くらい行ったコトあるんですけど、いいところですよw


 「娘の決意」篇(福島県下郷町会津若松市

 東北大学医学部を受験しようとしているあおいは、「こんなときだから」こそ旅行中。福島県下郷町の叔母さんの家から会津若松市野口英世記念館に訪れて、「ここで野口英世が勉強したんだよ」、「わたしもがんばるね」と決意を新たにする。雪合戦、いいなw


 「元気なガイドさん」篇(山形県山形市山寺)

 東北大学医学部合格後は、あおいが東北地方の各地を旅行する様子が描かれていく。「みんな良い子」篇(山形県あつみ温泉)、「迷い込んだ世界」篇(岩手県宮守村−現遠野市)、「おばあちゃんは、小野小町」篇(秋田県雄勝町横手市)、「テストのごほうび」篇(青森県弘前市)、「お誕生会」篇(宮城県南三陸町石巻市)、「未来の天文学者」篇(福島県田村市)、「ほんもののなまはげ」篇(秋田県男鹿市)といった流れで、「迷い込んだ世界」篇や「未来の天文学者」篇がけっこういいんだけど、Web上には動画がないよう。
 山寺は、貞観二年(860年)に天台宗の僧慈覚大師円仁によって開基された霊場で、観光客は、山の頂上にある奥の院まで長い山道を登っていくという観光名所(山寺観光協会)。松尾芭蕉が「おくのほそ道」で「閑さや岩にしみ入蝉の声」と詠んだ場所としても知られていて、なるほど、このシリーズって、現代版「おくのほそ道」なんだね、ということがはっきりした回。
 山寺は、三回くらい行ったことがあるんですけど、厚底ブーツが流行った頃に行ったことがあって、頂上に厚底ブーツを履いた女性がいたんですよね(彼氏の腕にしっかり掴まってたけどw)。あれは根性だって思った。いまだに尊敬しています。山寺は、玉こんにゃくを辛子をつけて食べるのがおいしいですよw


 「智恵子のふるさと」篇(福島県二本松市

 「あれが阿多多羅山、あの光るのが阿武隈川」は、高村光太郎の詩「樹下の二人」(「明星」大正12年4月/『智恵子抄』、龍星閣刊、昭和16年8月/高村光太郎「智恵子抄」@青空文庫)より。
 『智恵子抄』って、「精神分裂症で子ども同然の状態になった智恵子を懸命に介護し愛を貫いた光太郎」という形でやたらと美化されてるわけですけど、画家志望だったのに結婚を機に芸術家仲間から離れて孤立して、実家が破産して実家の金策に奔走してって感じで、智恵子の人生を考えると、あんまり美しい話じゃないんですけどね(黒澤亜里子『逆光の智恵子抄』女性文庫、参照のコト)。二本松観光協会のHPでは、智恵子の写真や作品が見られるようです。
 あおいはもう完全に大人になっていて、きれいなお姉さんって感じですねw


 「世界遺産を目指す町」篇@岩手県平泉町

 平泉は、一度は修学旅行、一度は家族連れで、二回ほど行ったことがあるかな。源義経を匿ったために源頼朝に滅ぼされた奥州藤原氏が支配していた地域で、中尊寺があるところですね(平泉町世界遺産推進室)。
 友人たちに「菜穂も変わったよね。きれいになった!」とツッコミを入れられるあおい。「変わってない! ですよね?」というあおいは平泉の人たちにまでツッコミを入れられてるw やっぱりみんなそう思うんだな。
 というか、このCMはあおいの結婚発表後一作目で、なんというか、NTT DoCoMo東北のCMシリーズを通じて、ずっとあおいの成長を見守ってきた東北の人たちの、あおいへのこよなき愛を感じます。これはたぶん、結婚おめでとうって、祝福しているCMなんですね。いい関係だなって思います。


 「伝統と自分らしさ」篇(宮城県大崎市―旧鳴子町

 2008年1月現時点で最新作。鳴子町こけしの顔を描くあおい。あそこはでっかいこけしが建ってますね。鳴子温泉郷といって温泉で有名な場所です。去年の夏、行ってきたんですけど、気持ちいいですよw(鳴子温泉郷観光協会)。友人たちがいるのは仙台市定禅寺通り(いつも歩いてるよw)。ということは、あおいが東北大学医学部に所属している、という設定はまだ生きてるんだな。
 「澤田菜穂子」の結婚はいつなんだろう? 医者にはなれるのか? 僕もゆっくり見守っていきますw (ていうか、おれはそろそろ東北離れろw)


 NTT DoCoMo東北@Wikipediaの記事は、なんだかとても気合が入っている。この記事におけるこのCMシリーズの解説は、こんな感じ。



 宮崎あおい出演のドコモ東北限定CMは、首都圏などとの新サービスインの時差を補正する意味があったが、「高度経済成長期以降に東京に移住した東北地方出身者たちと、東北地方に残った祖父母や親戚たち」というこの地方の家族形態のステレオタイプを描いたため、一気にこの地方で浸透した。また、宮崎あおい自身の魅力もさることながら、東北地方を知らずに東京で育った孫(親戚の子)が、東北各地を携帯電話の視覚コミュニケーションツール(iショット、iモーション、テレビ電話)などを通じて無邪気に興味を持ち、結果として東北地方の大学に進学する、という話の流れもこの地方の住民の心をつかんだ。


 NTT DoCoMo東北「オリジナルCMシリーズ」@Wikipedia 



 高度経済成長期に東北地方から東京に移住した家族の娘が、形態電話の視覚的機能を通じて東北地方に興味をもち、東北の大学に進学する。――このシリーズが東北地方で支持された背景には、時代を的確に捉えた設定があるわけですな。
 「東京と地方」というテーマを描いている点で、文化史的に重要だし、おもしろいCMシリーズなんじゃないかな、と思います。


 ところで、NTT DoCoMo東北のCMでは、「澤田菜穂子もの」以前のあおいの方がずっとかわいかったりする。


 「ゴルフ」篇



 「相手求む」篇



 「子犬探し」篇



 やっぱり愛がなくっちゃ、というコトで。