ハウスレクチャ:速水健朗「郊外デッドクルージング」



東京デッドクルージング このミス大賞シリーズ (『このミス』大賞シリーズ)

東京デッドクルージング このミス大賞シリーズ (『このミス』大賞シリーズ)



 速水健朗レクチャー「郊外デッドクルージング〜W浅野から遠く離れて〜」、ハウスレクチャ(ゲスト:速水健朗、コーディネーター:五十嵐太郎、日程:11月6日19:00開演、会場:仙台市卸町3-3-16 阿部仁史アトリエ)、参加して来ました。東北大学の建築系の研究室の企画で、会場もイベントの雰囲気もお手伝いの学生さんたちもおしゃれで垢抜けてましたね。会場の周りは配送業者の倉庫ばかりで、駅と会場の間に自衛隊の駐屯地があり、街道添いにファミレスやガソリンスタンドの灯りが点々とともっているという典型的な郊外なんですけど、会場は都会的な雰囲気でした。
 レクチャーのポイントは、90年代以降、物語を生む下部構造が劇的に変化し、物語を生む想像力のあり方が都市的な想像力から郊外型の想像力に変化したこと*1。都市型の想像力として挙げられたのは、ハーレクイン*2、チックリット、トレンディードラマ。郊外型想像力として挙げられたのは、もちろんケータイ小説と、その他にもいろいろなものが挙がっていました。都市型の想像力における「都会・消費・女性の社会進出」といった要素が、郊外型の想像力においては「地方・貧困・ギャル」といった要素のまったく反転した世界になっているという指摘がとても面白くて、「ギャング映画の反転としてのタランティーノ」や「馳星周の反転としての深町秋生」といった例も秀逸でした*3


 「抱きしめたい!」(1988)



 個人的には、トレンディードラマ論を興味深く聞きました。「金曜日の妻たちへ」(1983-85)や「男女七人夏物語」(1986)の脚本家鎌田敏夫地政学に意識的な脚本を書く人で、「金妻」は多摩ニュータウンを舞台とし、学園紛争時代の若者たちの階層上昇という背景を描き込んでいるとか、「男女七人」は東京をニューヨークに/隅田川をブルックリン橋に見立てているとか、W浅野主演の「抱きしめたい!」(1988、ただし鎌田脚本ではない)は、フジテレビの東京テレポート計画と連動しているとか、ぼくも団塊ジュニア世代なので、興味深かったですね。
 地方育ちの団塊ジュニア世代にとっては、トレンディードラマって「オシャレな人たちが住む憧れの場所」という東京のイメージを植え付けたもので、おそらく下の世代にとっては東京ってもっと違うものになってるんじゃないかと思いますね。団塊ジュニア世代が未だにいちばん「東京幻想」に幻惑されている気がします。西武の話も少し出ていたんですけど、秋田市で駅前の真ん中にほんきん西武が開業したのは1984年で、西武は他のデパートやスーパーとは異なるステータスを持っていたことを記憶しています。秋田フォーラスの開店が1987年。フォーラスには、タワーレコードが入っていて、高校時代よく輸入盤CDを買いに行きました。「オシャレな若者が行く店」という位置づけで、ぼくみたいなオタクには入りづらい雰囲気でしたけどね。ぼくが住んでいた町の記憶を辿ってみても、80年代から90年代前半あたりまで、流行や情報の発信地は東京という感覚はたしかにありました*4


ケータイ小説的。――“再ヤンキー化”時代の少女たち

ケータイ小説的。――“再ヤンキー化”時代の少女たち



 現代では流行はほとんど地方の郊外発の逆ルートになっていて、ケータイ小説も地方を舞台として地方で売れたものが、やがて東京でも流行するという順番になってるんですよね*5。内容も郊外型の想像力によるものとなっていて、舞台はファミレス、ショッピングモール、物語は知的で複雑なものではなくシンプルな物語となっている*6、と。今後については、現在は地方の崩壊が進んでおり、みんな東京に行くしかなくなっている/都市一極集中型になりつつあるから、再び都市型の想像力の時代が来るかもしれないが、先のことはわからないということでした。


ヤンキー文化論序説

ヤンキー文化論序説



 ところで、今のぼくにとってヤンキー文化とどう付き合うか? というのはけっこう大きなテーマだったりします。高校で不良やヤンキーと付き合ってますからね。で、レクチャー終了後、速水氏にサインを求めつつ、「今学校で不良に悩まされているのだ」と話したところ、以下のような言葉を書いてくださいました。





 ZEEBRAの引用なのですが、なんかすごい力づけられますね。さすがです。




 Dragon Ash「Grateful Days」(1999)




*1:前提は「経済的用件が変わるとコンテンツも変わる」という認識。マルクスの下部構造論を踏まえているとのこと。

*2:ハーレクインについては、郊外デッドクルージング@男の魂に火をつけろ!のレポートを参照のこと。

*3:会場には深町氏も来ていました。

*4:ちなみに、現在の秋田市は駅前は休日でも閑散としており、休日は郊外型の大型店舗イオンに車で行く感じになっています。駅前は駐車場がないから行かないわけです。モータリゼーション社会なんですよね。

*5:東京でも郊外化が進んでいるので、東京と地方/郊外の関係において郊外が優位となる。

*6:宮部みゆきは東京では売れてるけれど、地方ではまったく売れてないのがはっきりデータで出ているそうです。逆にケータイ小説は東京では売れなくて、地方で売れていたと。