動画で学ぶ映画史(5)―チャップリン、キートン、マルクス兄弟



 Charlie Chaplin「The Circus」(1928)-The Mirror Maze



 今回はサイレント期の喜劇映画(コメディ)について。まずは、喜劇王チャールズ・チャップリン(Charles Chaplin、1889-1977)の『サーカス』(The Circus、1928)。動画では、30秒、警官に追われるチャップリンが遊園地の鏡の迷路の中に迷い込む。1分35秒、人形のふりをするチャップリン。3分30秒、サーカスの真っ最中に乱入し、バカ受けする。


 Charlie Chaplin「Kids Auto Races In Venice」(1914)



 初期作品「ヴェニスにおける子供自動車競走」(Kids Auto Races In Venice、1914)。自動車レースを撮るカメラに映ろうとしたり、レースの道に出ようとしたりし、邪魔なので係員に排除される。ナンセンスな「ただそれだけ」という感じのギャグなのだけど、この作品で、チャップリンは、ちょび髭に山高帽子、小さめの背広にゆったりめのズボン、そしてステッキという浮浪者スタイルを完成させた。
 ……というか、あれが浮浪者の格好だということも言われなければ気づかないと思うのだけど、どうもそういうことのようだ。そして、この姿は、1952年の活動停止まで約40年の間、そのままずっと変わらなかった。


 Buster Keaton『One Week』1/2(1920)



 バスター・キートン(Buster Keaton, 1895-1966)は、チャップリンハロルド・ロイド(Harold Clayton Lloyd、1893-1971)と並ぶ「世界の三大喜劇王)の一人で、体を張ったアクションによる喜劇映画を得意とした。しかし、体を張ったギャグで笑いを取りつつ、表情は常に無表情であり、「The Great Stone Face(偉大なる石の顔)」というニックネームをもっていた。
 動画は、『文化生活一週間(キートンのマイホーム)』 (One Week、1920)という19分の映画の後半。前半はこちら。マイホームを建てたのはいいけれどぼろぼろという話で、3分10秒あたりからのシーンでは、強い風が吹くと家がくるくる回転する。ラストは家を自動車で引っ張っていったのだけど、汽車が近づき……というオチ。


 Buster Keaton「Steamboat Bill, Jr」(1928)



 動画は、『キートンの船長(キートンの蒸気船)』 (Steamboat Bill,Jr.、1928) より。台風が着てどんどん家が倒れていくのだけど、ベッドで寝ているキートンは気づかず、ベッドごと風に流される。風で飛んできた家に押し潰されたかに見えたがどっこい……といったギャグが展開されていく。たしかにキートンは無表情で、そのことがおかしみを醸し出していることにも気づく。


 Marx Brothers「Duck Soup」(1933)-Mirror Scene



 マルクス兄弟(Marx Brothers)は、1930年代に入ってから活躍した四人組のコメディ集団。Wikiによれば、ナンセンスなスピーディーなスラップスティックコメディを芸風とし、不況の1930年代に過激な笑いで人気者となった。兄弟というのは実の兄弟で、ユダヤ系ドイツ移民を父に持ち、貧困ゆえに学校を中退し、兄弟で舞台に立つようになったという。中心人物は、グルーチョ(Julius Henry Marx、1890-1977)で髭を生やした男がそう。もう一人、ハーポ(Adolph Arthur Marx、1888-1964)も特異なキャラクターで、まったく喋らずに次々といたずらを仕掛けていくというキャラクターを演じている。
 動画は、「我輩はカモである」(Duck Soup、1933)より。鏡に映った映像のふりをするというシーンで笑える。「我輩はカモである」は、ほんとうに腹を抱えて笑え転げられる数少ない映画の一つなので、強力にオススメしておきます。


 Marx Brothers「A Night At The Opera」(1935)-Crowded Cabin Scene



 「オペラは踊る」(A Night at the Opera、1935)より。もともと狭い部屋に、ベッドメイク、修理工、マニキュア塗り、掃除婦、ウェイターなどを次々と呼び込んでいく。部屋に入ってくる人々が顔をしかめながらも、特にツッコミを入れずに入ってくるところがいい。


 Charlie Chaplin「Modern times」1/9(1936)



 再びチャップリンについて。『モダン・タイムス』(1936)は、チャップリンにとって初トーキー作品であり、フリッツ・ラングメトロポリス』へのハリウッドからの回答という面ももっている。
 動画は、1分14秒、羊の群のシーンに黒い羊が一匹交じっていることに注目。チャップリンはいつも黒い背広を着ているので、これはチャップリン自身の姿といえる。「白い羊の中の黒い羊」としての喜劇役者というわけだ。2分40秒、テレビ映像で命令を受ける労働者。この映画はトーキーなのだけど、人間同士の会話が描かれることは基本的になく、効果を考えつつ、限られたシーンでのみ音声を使っている。3分、工場の流れ作業に付いていけないチャップリン。この映画は、実は労働者の疎外をテーマにしている。


 Charlie Chaplin「Modern times」2/9(1936)



 続いて、20秒、自動食事機の実験台にされるチャップリン。機会が暴走しひどい目に遭う。口元を拭いてくれる機会が笑える。4分、再び流れ作業。チャップリンはおかしくなり、ついに4分50秒、歯車の中に巻き込まれる有名なシーンとなる。でも、けっこう楽しそうだw 戻ってきたチャップリンは、何でもペンチで曲げようとするようになり、女性を追いかけていくのだけど、かなりやばいw


 Hal Roach「It's a Gift」(1923)

 もう一つ、自動機械ネタで、ハル・ローチ(Harold Eugene "Hal" Roach, Sr.、1892-1992)の映画を紹介。2分30秒からのシーンでは、ベッドの前にぶら下がった紐を引くと、ご飯から何から一通り朝の準備を終えられるという文明の利器が描かれる。6分からは磁石を利用して、バスの後を追っていく車が登場する。


 Jackie Chan's homage to the silent greats



 最後に紹介するのは、ジャッキー・チェン監督・主演の映画『プロジェクトA』(1983)。この映画は、192-30年代ハリウッドのスラップスティック・コメディへのオマージュが詰まった作品であり、一つ目、止まらない自転車が暴走する自転車アクションは、バスター・キートンの『キートンの探偵学入門(忍術キートン)』 (Sherlock,Jr.、1924) 、二つ目、1分25秒からの歯車に巻き込まれるシーンは、チャップリンの『モダン・タイムス』(1936)、三つ目、1分50秒から始まるシーンは、ハロルド・ロイドの『ロイドの要心無用』(Safty Last!、1923)からの引用になっている。
 三つ目の時計台からの落下シーンは、ジャッキーの身体を張ったアクションシーンとして代表的なもので、このシーンのために、25メートルの高さから三度落下。大けがを負ったのだった。