夢からさめて―ネオ渋谷系アーティスト動画集



 久しぶりに渋谷系について情報を調べていたら、巷では2003年あたりから「ネオ渋谷系」というムーヴメントがあったらしいということを、初めて認識した。ええっ、そんなのあったのかよっ!
 どれだけ音楽から離れてたんだ……という感じだけど、とにかく聴いてみようということで、ネオ渋谷系@Wikipediaを参考にしつつ、少しだけ動画を漁ってみた。


 TetrapletrapVector」(2003、アルバム『Filmcut in the Siesta』収録)



 Wikiには、「「ネオ渋谷系」という呼称の始まりは定かではないが、tetrapletrapの初期のインディーズ作品「Filmcut in the Siesta」(2003年2月3日発売)に「第二次渋谷系ムーブメント」と記載されていることから、これがシーンの始まりと想定される」とある。フリッパーズ・ギターそのままのネオアコサウンドで、これはまあ、たしかに渋谷系という感じ。


 ANAFLASH」(2007、アルバム『Frash』収録)



 今回、これはそのうち買おうと思わせてくれたのは、このバンド。楽曲がとてもいい。Wikiには、「2005年10月26日にアルバム「CYPRESS」でインディーズデビューを果たしたアナのデビュー後のプロモーション資料に「NEO渋谷系」との表記があり、この頃には既に一般的な言葉になりつつあったことがうかがえる」とあるが、おそらく音楽的にはもっと幅が広いのだろうと思わせるし、渋谷系というよりくるりっぽっかたり。
 渋谷系の本質は、サンプリングを利用したポストモダンな解体と再構築だったと思うのだけど、サニーデイ・サービスくるりは、70年代フォーク・ロックへのノスタルジックなオマージュという性格が強くて、両者はまったく違うものだったと感じている。ANAもおそらくこちらの流れに属するバンドだと思うが、ほんとうに楽曲がすばらしく、口ずさみたくなる。


Capsule「tokyo smiling」(2005、アルバム『NEXUS-2060』収録)



 Wikiには、「中田ヤスタカこしじまとしこから成るCapsuleは、2003年3月19日発売の作品「CUTIE CINEMA REPLAY」にてPizzicato Fiveを彷彿させるガールポップサウンドへ方向性の転換を果たし」とあるのだけど、ここでは、ピチカートっぽさという点でわかりやすいこの曲を貼っておく。むろん、Capsuleは、渋谷系という括りにはとても収まらないバンドであり、中田ヤスタカは、Perfumeのプロデューサーとして活躍し、多彩なサウンドを展開している。アルバム『CUTIE CINEMA REPLAY』は、 「Plastic Girl」「Music Controller」を収録。


 ORANGENOISE SHORTCUT feat.櫛引彩香「桜リタルダンド」(2006、アルバム『Bubblelights』収録)



 Wikiには、「2004年1月23日には音楽ゲーム「pop'n music」の楽曲を多数手がける杉本清隆のソロプロジェクトORANGENOISE SHORTCUTが初期のCorneliusを髣髴させる作品「POP QUIZ CIDER」を発表」とある。ここでは、3rdアルバム『Bubblelights』収録の「桜リタルダンド feat.櫛引彩香」を紹介。オシャレなサウンドで、たしかにこれは渋谷系っぽい。


 RAM RIDER「ユメデアエルヨ」(2005)



 これは聴いたことあるっ! たぶん町の中で流れていたことがあると思う。でも、渋谷系っぽくはないかな……。2007年以降は目立った活動がないよう。


 YMCKジョン・コルトレーン回転木馬の夢を見るか」(2003、アルバム『ファミリーミュージック』収録)



 ピコピコ系のゲームサウンド。PVもファミコンっぽい映像ばかりらしく、ということは、ネット民と親和性が高いので、YOU TUBEにもたくさんPVがあがっている。女の子のボーカルがオシャレな感じだったりもするけれど、むしろナゴム系なんじゃないかという気もするな。


 クノシンジ「ポータブルポップミュージック」(2007)



 ネオ渋谷系の王子様? いや、かわいいけどさw なんかもう子どもがかわいいみたいな感じ。


 Hazel Nuts Chocolate「人生讃歌」(2004、アルバム『Bewitched! 』収録)



 これはいい曲ですね。PVではなく猫の写真を貼りまくった動画みたいなんですけど、曲とよく合ってます。渋谷系なのかどうかといえば、この曲も必ずしもそんな感じはしないですけどね。2ndアルバム『Cute』(2005)収録の「Love+Piece+Icecream」は、キャンディーみたいに甘いガールポップで、渋谷系っぽい。




 こうして見てみると、あまり音楽的な一貫性はないのかな、と思いますね。いや、もちろん、渋谷系自体が、ネオアコ、ダンス・ミュージック(ハウス)、ヒップホップ、ジャズ、R&B、テクノなど多様な音楽性を持つバンドを強引にカテゴライズした商業的なラベリングにすぎない面があったわけだけど、ネオ渋谷系に至ってはさらに統一した運動体としてのムーヴメントという感じもしなくて、渋谷系のリスナーに紹介するためのラベリングにすぎない感じがする。 
 TetrapletrapORANGENOISE SHORTCUTは、渋谷系っぽいと思うけれど、その他は特に渋谷系を意識しているわけではないアーティストも多いような気がする。最も活躍しているのはCapsuleで、今後ブレイクしそうなのはANAだけど、ともに渋谷系という枠に収まらない音楽性を持つバンドだと思うし。


 まあ、「渋谷系」というのは、本質を捉え損ねた軽薄そうなネーミングからは意外なほど、日本の音楽史にとっては影響力の大きなムーヴメントだったので、こんな風にいまでもよく使われると思うのだけど、まあ、このエントリみたいに、「渋谷系っぽい」とか「渋谷系っぽくない」とか判定してても未来がないですからね。
 渋谷系の本質って、ノスタルジーとは切れてるものだったと思うし、そういう意味では、Capsuleみたいなアーティストこそが渋谷系のエッセンスを引き継いでるのかもしれないですよね。