文化系女子的アイドル―本上まなみから堀北真希まで



 女優やアイドルが「本が好き」とか「読書が好き」とか言っているインタビューを見ると、「これでどれくらい文化系男子が釣れるんだろう?」と思いつつ、いちいち注文通りに釣られてしまう。『ダ・ヴィンチ』が表紙グラビアを飾る女性タレントにどんな本を読んでいるかインタビューしているグラビア&インタビューページなんかは、書店で雑誌が目に入れば必ずチェックしてしまうし。なので、文化系女子的なアイドルには、とにかく一度は引っかかる。まあこれは文化系男子のウィークポイントみたいなものなので、まあ普通引っかかるものなんじゃないかな、と思う。
 最近、話題になった文化系女子的な女性タレントを挙げていきたいのだけど、ぱっと思いつくのは、本上まなみ緒川たまき椎名林檎宇多田ヒカル眞鍋かをり柴咲コウ長澤まさみ堀北真希中川翔子といったあたりだろうか。
 宇多田ヒカル(1983年生)や椎名林檎(1978年生)については、彼女たちが絶賛した本が中高生の間で読まれるなんて光景が見られるけど(Hikaruの本棚Google検索「椎名林檎+塩狩峠」)、遠藤周作『海と毒薬』や三浦綾子塩狩峠』なんて、彼女たちがいなければ今の中高生に届くような文学作品ではないので、これはいいことだと思う。柴咲コウ(1981年生)は、彼女のポップが片山恭一『世界の中心で、愛を叫ぶ』の売り上げに貢献したことが有名で、これは柴咲が文化系女子っぽくないからこそ成功したケースのようにも思えるけれど、「美人+本=素敵!」という文化系女子萌えの方程式が働いていたことは確かだと思う。
 本上まなみ(1975年生)は文化系女子の走りみたいな人で、短大在籍時代に、仕事の合間に谷崎潤一郎細雪』を読んでいる姿を中森明夫が『SPA!』の連載で報告していたし、『ほんじょの虫干。』(学研、1999年)以下のエッセイ本で、読書を含む文化系女子ぶりを披露している。長澤まさみ(1987年生)や堀北真希(1988年生)は「文学少女」的なイメージを強調している感じがするけれど、彼女らの「美少女+本=素敵な文化系女子」というイメージは、直接的には本上がルーツだと思う。本上さんについては僕もファンだったのだけど、結婚をきっかけに急速に熱が冷めてしまって(「おでんくん」は好きだけど)、それはなぜかというと、結婚相手の編集者兼歌人沢田康彦blog「きょう会ったあなたは」が、許容量を越えて、気持ち悪すぎたからだ。



 きょう会った乙葉さんは、ほわほわのファーのような女性でした。
 白い雪の広い野原になぜだかちょこんとひとりで休んでいる白うさぎのよう。
 (「シルキーなうさぎさん」(乙葉さん)/2004.12.07)


 きょう会った相武紗季さんは、エクボの人でした。
 話しかけてくるぼくらのことを、くりくりの黒目がちの目でじっと見つめる。一直線の眼差しです。そして微笑む瞬間には、右の頬にも左の頬にも見事なエクボがくっきりと浮かび上がる。それはまるでダーツゲームのまんまん中が二つあるような、希有で魅力的なディンプルです。
 (「まっすぐに美しく立っている」(相武紗季さん)/2005.01.11)


 きょう会った戸田恵梨香さんの声は(蜂蜜のようだ)と思いました。
 甘くて、ちょっとだけざらついていて、ねっとりと包みこむような。スウィートではあるけれど、のどごしに苦みがあるような……
 おっとりとしたしゃべり方は、甘えん坊のようでもあり、年上のおねえさんのようでもある。
 (「どの一瞬も」(戸田恵梨香さん)/2006.11.02)


 女優でありながら、“ピアニスト”で“作曲家”。会う前はそれがどういう人であるのか、像が結びませんでしたが、会って話して“存在するもの”として知覚できました。
 その上に“美貌”が加わって、もう完璧です。
 だから、だから、スーツ姿で水に浸けてみたい、雨を降らしたい、泣かせてみたい、悩ませたい、汚してみたい……これから多くの演出家がさらにそれに挑戦し続けるのだろうと、僕は確信しました。
 (「水に浸けてみたい」(松下奈緒さん)/2006.10.19)



 相武紗季の記事を書いている時点で48才で、世の中にはこういう人もいるのかと、ちょっとおどろかされると同時に(よく言えばピュアなんだろうけど、いやでも、あからさまに変態なんですけど。しかもたぶん本人に自覚がないっていうところが……)、本上さんには「なんでまたこんな奴と……」という思いを抱かざるをえないところ。まあ恋愛なんて傍から見てるかぎりでは、お互いがどこがいいと思っているのかさっぱりわからないものだけれど。
 眞鍋かをり(1981年生)や中川翔子(1985年生)はblogを通じて、ファンと友だち感覚の付き合い方を築いていくことで、幅広いファンを獲得していった感じ。小説や映画を薦める場合も「あれ面白かったよ!」と友だちに言われたので読んでみる/見てみるみたいな感覚で、宇多田ヒカル椎名林檎のようなカリスマに近づきたいとか憧れるといった雰囲気とは少し違っている(宇多田の場合は、友だち感覚もあるけれど)。眞鍋かをりは『爆笑問題のススメ』という文学バラエティーでアシスタントも務めていたけれど、実際読書家なのは間違いないところ。しょこたんはオタク女子の代名詞的存在だけど、筒井康隆がわかったりもするし文化系女子でもあると思う。
 あと、NHK-BS2『週刊ブックレビュー』司会を勤めている女優中江有里さん(1973年生)の本の感想は毎回楽しみにしている。彼女は、2002年、「納豆ウドン」で第23回BKラジオドラマ脚本懸賞最高賞受賞、2006年11月、小説『結婚写真』(NHK出版)を刊行しており、脚本家&作家でもある。女優石田ひかり(1972年生)は、Wikipediaによれば、堀越高等学校卒業、亜細亜大学法学部卒業、二松学舎大学大学院文学研究科国文学専攻博士前期課程(修士課程)修了。亜細亜大学法学部卒業時の卒業論文は「堕胎罪について」とあり、ならば大学院では近代文学と堕胎というテーマで修士論文を書いた可能性が考えられて、進学に必然性がある。がんばったんだな、というのがわかって、好感を抱く。2006年には、育児エッセイ『まぁるい生活』(幻冬舎)を刊行しており、本上さん(1975年生)も出産していて(育児エッセイを書くのは時間の問題だと思う)、このことは、「産み出すのは子どもではなく創作(自己表現)」という一部の自意識過剰系の文化系女子に見られる傾向からすれば大きな要素であるようにも思うのだけど、「産み出すのは子どもではなく創作(自己表現)」などというのは、文化系女子をめぐる言葉の中でも、当事者である文化系女子の女性たちを傷つける可能性が最も高い、ステレオタイプなイメージであるように思われるので、自戒を込めつつ、注意を呼びかけておきたい。
 まあ、こんな感じで、「おまえが沢田康彦をDISできないだろう」というくらいには、僕もまた「文化系女子」的なものに惹かれている「文化系男子」なわけだけど、恥さらしついでに告白してしまえば、いま一番惚れ込んでいるのは、「BSマンガ夜話」でアシスタントを務めている笹峯あい(1978年生)で、blog「aibook #diary」blog「アイノカタチ」を、日記の中で見せるクールな自己客観視ぶりがめちゃくちゃカッコいいと思いながら愛読している。強い自意識を持ちつつそこに溺れない強さをもっているという感じ。2005年には演劇ユニット「and Me...」を立ち上げて、作・演出・出演の三役をこなしているなんていうのもカッコいいし。


 緒川たまき(1972年生)については、「文學ト云フ事」のページを紹介しておきます。1994年に放送された、「日本の文学作品を毎回1つ取り上げ、映画の予告編に模した映像」を流すという内容の番組で、緒川たまき・井出薫・宝生舞という三人の女優を中心に制作されています。動画は、YOU TUBE文學ト云フ事@YOU TUBEでかなり見れます。おススメは、川端康成朝雲」かな。





ほんじょの虫干。

ほんじょの虫干。



結婚写真

結婚写真



まぁるい生活

まぁるい生活



緒川たまき1997

緒川たまき1997