川上未映子サイン会



ヘヴン

ヘヴン





 『ヘヴン』刊行記念川上未映子サイン会(日程:9月26日16時〜、場所:丸善仙台アエル店)についてのご報告です。


 今年の3月に大学の読書会で『乳と卵』を取り上げたことがあり、そのとき参加したメンバーに連絡したところ、読書会からぼくも含めて4人が参加することになりました。うちふたりは学部生の女の子たちで、彼女たちは手紙を渡していたみたいですが、ぼくは30すぎた男性ファンがお手紙でもないだろうということで、特に何も用意していきませんでした。プレゼントは渡したかったんですけどね。今月はずっと忙しくて考える余裕もなかったし、何も思いつかなかったんですよね……。この辺り実はちょっと後悔してます。「3月に読書会をやって、そのときのメンバー4人で来て」っていう経緯を伝えるだけでも、きっと未映子さんはうれしく思ったと思うので。
 呼び方が「未映子さん」になってますが、そう言いたくなるほど、ほんとうに気さくないい人で、「自分は特別な芸術家だ」なんて勘違いしてるところが微塵も感じられない方なんですよね。そのことはTVやblogやインタビューを見てわかってたことなんですけど、ファンと同じ目線で、等身大の自分で接しようというスタンスが、すごくよく感じられるんですよね。登場シーンからして、どもどもって感じで頭を下げながら入ってきて、めちゃくちゃ腰が低かったですからね。


 それにぼく、川上未映子に「命令」しました!
 というのは、いよいよぼくの番が回ってきて、すごくドキドキしながらサインをもらいに行ったんですけど、「よろしくお願いします」って未映子さんの方から言われてぼくも言い返して、でもめちゃくちゃあがってるし、まだまだ後にたくさん人が並んでるからあまり長く時間を取っちゃいけないっていう意識もあるものだから、もうやりとりがぐだぐだなんですよ。


 それで、最初のやりとりなんですけど、整理券に名前を書く欄があって、ファンは整理券を本と一緒に渡して未映子さんはそれを見ながらサインするわけですよ。で、ぼくは、整理券の名前の欄に、自分の名前の後に「helpline」も入れておいたんですね。そうすると、「これは……」となるので、「ぼくはネットでいろいろやってて、はてなtwitterでこのIDでやってるので」って言えるじゃないですか。実際そういう展開になったんですけど、名前の後のあたりに「<」という記号の後に「helpline」と書いていたので、未映子さんや担当者さんたちが一瞬悩んじゃったみたいで、(「<」を指さして)「これは……」って聞かれたんですよね。そんなことどうでもいい! 時間がもったいない! っていう感じじゃないですか。で、「それは気にしなくていいです」って言ったんですけど。
 その後も、未映子さんが「helpline」をどう書くかで悩んで、「縦じゃないですよね。横に書きましょう」って言って本を横にしたりですね……なんかもういちいちぐだぐだで、すごく楽しいんですよね(笑) こういう風にぐだぐだになりながらやりとりしてるのは、未映子さんがあまりにいい人なものだからできるだけ真摯に付き合ってくれようとしてるからで、そういうのもわかるから、かわいいんですよねー。


 で、「命令」の話なんですけど、未映子さんが本にサインをし始めたとき、「ぼくは大学院で文学の研究をしてて……」って話しかけはじめたんですよ。そうしたら、未映子さんは本から顔をあげて、「え、そうなんですか?」と筆を止めてぼくの話を聞こうとするから、ぼくは「書いてくださいっ!」って言ったんですよね。そしたら、未映子さんは「あ、はい」ってサインに戻ったんですけど、もちろん、ぼくは「まだまだ人が並んでるから時間を取っちゃいけない」っていう意識から言ったんですけど、これって「いまはおれのためにサインを書いてるんだからさっさと書いてっ!」っていう風にも聞こえますよね? いや、別に誤解されなかったと思うんですけど、言葉としてそういう風にも解釈できるのも事実で、普通に考えたらぼくなんかが川上未映子に命令するなんていうシチュエーション、ありえないわけじゃないですか。でも、ぐだぐだなやりとりの現場の中では、こういうシチュエーションが起こりうるっていうのが可笑しいですよね。
 ぼくは普段そんなに強く人に何か言えるタイプじゃないんですけど、このときはなんか妙に強気な感じで言ってしまったんですよね。たぶん他の人(並んでる人)のためだからだと思うんですけど、それでまたぼくなんかに強く言われて従ってしまう未映子さんっていうのも、ほんとにいい人だし、かわいいですよね……。





 ぼくに「書いてくださいっ!」と命令されて、未映子さんが書いたサインです。「helpline」の横にぼくの実名が書いてあります。


 でも、実際、未映子さんに、伝えたいと思っていたこと、「自分はずっと孤独な人生を送ってきたし、他人がわからない/世界のありかたがわからないみたいな感覚をずっと持ってるから、『ヘヴン』はとても共感できたのだ」ということや、「今は高校で非常勤講師をしながら、大学で文学を研究していて、ネットでもいろいろやっているのだ」ということを一応きちんと伝えられたので、それはとてもよかったですよ。最後に握手してもらったのもとても温かかったですね。とても励まされるものを感じました。


 ぐだぐだなやりとりもすごく楽しかったですね。不器用なヤツ同士のお互いに好意を持ってるのに噛み合わないまま終わった初対面みたいな(笑) これぼく、しばらく思い出し笑いできますね。思い出すたびに楽しくて仕方ないです。