仙台短編映画祭2008



 仙台短編映画祭2008、二日目のプログラムに足を運んできました。4日間で11のプログラムが組まれていたのですが、ぼくが観たのは、「コトバの世界 吉浦康裕の軌跡」「新しい才能に出会う」の二つのプログラム。
 吉浦康裕は、個人制作でアニメを制作していたクリエーターで、2001年、九州芸工大時代にNHKデジスタ」に「キクマナ」を制作・応募したところからキャリアを開始し、2006年にOVA「ペイル・コクーン」を発表、現在は集団制作に移行し、Yahoo!動画で『イヴの時間』を配信中。今回は、第一作「キクマナ」(2001、6分)、第二作「水のコトバ」(2002、9分)、最新作「イヴの時間」1&2話(2008、各15分)を上映し、上映終了後には、監督のインタビューもありました。


 アニメの個人制作といえば新海誠が有名で、吉浦については今回初めて存在を知ったのだけれど(「トップクリエイターズインタビュー・吉浦康裕」を読むと、やはり吉浦は新海の影響を受けているよう)、おそらくおもしろいものを作っているだろうという直観が働き、とにかく行ってみた……ということだったのだけど、直観は当たりで、とてもおもしろく、刺激的だった。
 「キクマナ」(2001、6分)は、押井守天使のたまご」(1986)のようなイメージの連鎖で見せるアート系アニメーションで、後半には魚のモチーフも現れる。SF的なアイデアの面白さもあるのだけど、仮面の目が空いている隙間のフレームが映ったり(=仮面の少女の視界になる)、カメラがぐるぐる回転したり、カメラの運動や視点の切り替えのテンポがよく、飽きさせない。初めて味わう世界の感触が体験できる映像体験を提供してくれる作品であり、最初の1分で彼が突出したアニメクリエーターであることがわかる。


 「水のコトバ」(2002、9分)は、従来型のアニメキャラクターが登場している作品なのだけど(絵は決してうまくない)、やっていることは「キクマナ」と同様に思いきり実験的で、喫茶店での一幕もので、しかも9分という短さであるにもかかわらず、さまざまな工夫で飽きさせず見せてくれる。たとえば、なんか変な図が挿入されたり、カメラがさかんに動いて「ぎゅんっ!」という感じでいきなり天井まで引いたりするのだけど、そのために喫茶店の一幕ものという空間性の単調さを免れている。
 また、店内に何組かいる客がそれぞれぐだぐだ話をしているのだけど、スポットがある組から別の組に移っても前の組の話声は消えるわけではなく、観客的にはどちらの話の続きも聞きたいのでどちらも気になる、でも聞けないよっ! 聖徳太子じゃあるまいしっ! といった見せ方がされている。これは作中でキャラクターが「力のない言葉はすぐに消えるが、力のある言葉はいつまでも残る」といった言霊の話をしており、作品のテーマと関わるのだろう。


 この作品も「キクマナ」同様、いままで見たことがなかった映像体験をさせてくれる。アニメ的なキャラクターを使いながら、世界を新鮮なものに作り替えてしまう映像のマジックはこの作品も同様なのだけど、四の五の言うよりも、実際に作品を見てもらった方が早い。YOU TUBEに動画がアップされてるようなので、このblogでも貼っておきたい。「水のコトバ」は、DVD『ペイル・コクーン』に収録。「ペイル・コクーン」もおそらく相当すごい作品だと思うし、アニメに興味のある方は一見の価値があるだろうと思う。


 吉浦康裕「水のコトバ」(2002)



 「水のコトバ」制作時22才というのだからおそれいる。まぎれもなく天才じゃないか……。
 「イヴの時間」1&2話(2008、各15分)は、近未来の日本を舞台とするストーリーで、アンドロイドのロボットがお手伝いさんとして家庭に入るようになっているのだけど(「ホームロイド」と呼ばれる。世間では「アンドロイドに精神的に依存するのは、コミュニケーションが苦手な若者たち」というレッテルが貼られている)、高校生の主人公が自分の家の女性型アンドロイドを尾行したところ、彼女が「人間とロボットを区別しない」ことをルールとする喫茶店に入り浸っていることを突き止めて、これをきっかけに心の交流がはじまっていく、しかし背後にはなにやら組織的な動きもあるようであり……といったところで、2話は終わり。全6話の予定で、発表しながらアニメーターの協力を募り……といった形で進めているのだそう。


 上映終了後の監督のインタビューで、吉浦氏がいくつかおもしろいことを言っていたので、ここでも箇条書きでメモしておきます。


・「キクマナ」は、アート系の作品をテンポよくやればおもしろいものができるんじゃないかという発想が出発点だった。
・アニメでは、ロボット三原則をロジカルに突き詰める作品を作ってもあまりおもしろくない。それよりは、対人関係のドキドキ感といったものを描くストーリーに変換した方が親しみやすいし、伝わりやすいと思う。
・アニメのキャラは、人間の役者のようには芝居はできない。悲しいのを耐えてなんともないような顔をしているのだけど悲しみが滲みでる……といった複雑な演技はアニメのキャラにはできない。だから、見せ方には工夫が必要になる。
・アニメのキャラクターには普遍性がある。アニメのキャラクターは、あれは実は日本人ではない。どこの国に行っても受け入れられる。
・アニメは根が虚構なので、突飛な設定でも受け入れられる器の大きさがある。実写もCGの進化でいろんなことができるようになっているが、根が虚構であるアニメの優位性は変わらない。
・「イヴの時間」では、ツンデレキャラを自分なりに極端にしたキャラを出す予定。


 話を聞いていて、この人はかなり頭がいいんだろうな、と感じました。アニメの監督は頭がいい人が多いですね。
 プログラム終了後は、カフェで5〜6人のファンに囲まれてずっと話をしていましたね。「まだそんなに有名じゃないので……」なんて言ってるのが聞こえてきたんですけど、これは時間の問題だけでしょうね。


 とにかく今回は、新海や押井のレベルで期待できるアニメクリエーターをまた一人「発見」することができたので、よかったです。


ペイル・コクーン [DVD]

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