仙台フォーラム:没15周年記念F・フェリーニ特集上映



道 [DVD]

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崖 [DVD]

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 仙台フォーラムで、没15周年記念F・フェリーニ特集上映としてフェデリコ・フェリーニの映画を三本上映しており、お誘いもあったので、『崖』(1955年)を観に行く。


 フェリーニは、実は一本も観たことがなかったのだけど、理由は、古代ローマを舞台とした退廃美を主題とした、難解な映画を撮る監督というイメージがあったからで、実際、Wikipediaから辿ってみると、『甘い生活』(1960年)も『8 1/2』(1963年)も難解なようだし、『甘い生活』と『サテリコン』(1969年)は、「ローマの快楽と退廃」を主題とする映画のようだ。あまり観る気しないでしょ?
 けれど、「せっかくだから予習しておかなきゃね……」ということで観た『道』(1953年)も、『崖』も、冴えない人生を送る人間が自分なりに一生懸命に生きているのだけど、より冴えない方向へとどうしようもなく転落していくという人生の真実を描くストーリーを、円滑に破綻なく、巧みに語っていく映画で、むしろこのblogでよく取り上げているようなタイプの映画だったんですよね。なので、観ておいてよかったと思う。食わず嫌いはよくないですね。


 『道』は、旅芸人の男ザンパノに助手として買われた、ちょっと頭の弱い、けれどとても心が素直で優しい、けれどちょっと心が脆くもあるという女の子ジェルソミーナの話で、ザンパノは、一人で生きてきたという自負がある、プライドが高くて、怒りっぽい男なものだから、あちこちで問題を起こすのだけど、ジェルソミーナは、「また、この人問題を起こしたのね……。でも、本当は優しい人なのよね」とか思いつつ、付いていく。
 で、「ちょっとはわたしのこと好き?」とか訊くのだけど、ザンパノは愛とか口にできるような器用な男ではないので、思いに応えられない。そうこうしていうちに、ふたりは別れざるを得なくなるのだけど、ザンパノも実はジェルソミーナの明るさに救われていたところがあったので、いなくなった後で彼女の存在の大きさを知り、悲嘆にくれる、という。まあ、悲しい話なわけですよ。


 『崖』は、詐欺師の話なのだけど、これがまた居たたまれない話で、別にやりたくてやってるわけじゃないのだけど、もうまっとうな生活には戻れなくなっているので、このままでは先には破滅が待っていることが分かっているのに、どうにもこうにも戻ることができない、という。詐欺師といっても、まともな市民感覚も持っているので、できればまっとうな生活に戻りたいと思っているんですよね。そこが切ない。
 自分が詐欺師だと知らずに信頼している娘さんと再会して、資金援助しようとしたりするんだけど、観客の側には、「この期に及んで人並みの幸せを手に入れようなんて、そんな虫のいい話は通用しねーよ」というのがわかっている。居たたまれないんですよね。


 『崖』の背景には社会の貧困と不況があって、農村の貧困ぶりはひどいものだし、それよりは豊かな暮らしをしている中間層が住む都市部でも不況で仕事が得にくい状況にあるらしい。それで主人公も仕事を得られないわけだし、詐欺師仲間は、画家や歌手志望の青年たちだったりする。
 映画の見所の一つは、多種多様な詐欺師の手口を見せるところでもあるのだけど、そういうのを見ていると、日本でオレオレ詐欺であるとか、いろんな詐欺をやっている人たちの中にも、まともな市民の感覚を持ちつつやっている人がいるんだろうな、と思う。で、家庭があったり、恋人がいたりもして、それなりに人並みの幸せを手に入れたいと思いつつ、しかし、いつ後ろに手が回るかわからない不安を抱えてもいるんだろうな、という。
 そういう意味では、『崖』という映画は、現代の日本で観られるべき映画だと思うし、仙台フォーラムは、よくこの映画を選んだな、と思いますね。えらい。


 仙台フォーラムのフェリーニ特集は、8月16日から22日まで、『8 1/2』を上映しているようです。
 フェリーニが優れた映画監督であることはわかったので、難解な作品もなんとか付き合えるでしょう。押井に付き合えるんだから、フェリーニにだって付き合えるはずです。……というわけで、いずれ観に行ってみようと思っているので、時間がある方はぜひ。