携帯メールショートショート Vol.10/「井戸」
携帯メールショートショートの十回目です。
井戸
ハルはおれの幼馴染みで、子供の頃よく遊んだ。大きくなったらおれの花嫁になるのだとハルはよく言っていた。
ハルは村で一番の美人に成長した。おれはハルが眩しくて、自然疎遠になった。ある年の祭りの後ハルは村の不良と恋仲になった。二人は駆け落ちし、次の年ハルだけ赤子を連れて戻ってきた。
二年間家で監禁生活を送った後、ハルは村長の息子の所へ嫁ぐことになった。式は盛大に行われた。
四年後ハルの浮気が村の噂になった。相手は病で帰省中の青白い顔をした大学生だった。
村長の家の監視は厳しくなった。おれはハルに呼び出され、逢い引きの手引きを頼まれた。一目会えればいいのだとハルは言った。こんなこと頼んでごねんね。でもわたしには他に頼れる人がいないの、と。
しかし逢い引きの日を境にハルと大学生は村から姿を消した。二人は駆け落ちしたのだと村人は噂した。ハルの子はおれが引き取った。名前はナツだった。ナツはハルとよく似た顔立ちをしていた。
ナツは村で一番の美人に成長した。ある年の祭りの後ナツは村の不良と恋仲になった。
不良は昔よりタチが悪くなっていた。不良はナツをそそのかし、駆け落ちの資金用に金を奪いに来た。二人はおれを殺し、死体は裏の井戸に捨てた。
ハルと大学生を捨てた井戸だった。
比較的長いんですけど、その分だけいろいろな要素を取り入れてます。テーマは、きれいな子は中学になるとヤンキーになるとか、自分のものにならない女への恨みとか、人の営みの季節の移り変わりのごとき変わらなさ、繰り返しであるとか、あとそれから不良の変化に見られるような、ゆるやかな村への「近代」の流入ですね。そんなところでしょうか。
ハルの男が、不良=腕力、村長の息子=財力、大学生=学力と、三者三様に、「おれ」にないもの、コンプレックスの源になるものを持っているというのが、この話のポイントですね。