携帯メールショートショート Vol.9/「道中」



 携帯メールショートショートの九回目です。



道中




 浪人はもう長い間旅をしていた。浪人は元は武士だったが、妻に横恋慕した末に妻と幼い子を殺し出奔した同僚の男を追って、仇討ちを果たすべく脱藩したのだった。
 長い旅の間に路銀は尽き、身なりはぼろぼろだったが、それでも浪人は旅をやめなかった。浪人は体を病み、次第に老い、やがて死んだが、尚浪人は旅をやめなかった。
 仇はとうに死に、故郷でも事件を知る者は絶えていた。浪人自身が自分がなぜ旅をしているのか、もう思い出せなかった。
 長い旅の果てに浪人は神になっていた。浪人が通過した後の村では疫病が流行し、生き残る者は一人もなかった。





 自分で気に入ってるのは「道中」というタイトルですね。浪人の旅が当初の目的を失って、「始まりも終わりもない」ものに化しつつ、人々にとって永遠に災厄をもきちらすものになる、という。道中は永遠に続く果てのないものになっているわけです。
 この話でも人が神になっていますね。人が神になる、というモチーフにこの頃惹かれていたんでしょうね。念頭にあった作品には、映画『Dolls』や、『もののけ姫』の祟り神があったし、結末はポーの「赤死病の仮面」ですね。