キム・スンヨン『チベットチベット』






 Wasite.STOREで、金森太郎こと金昇龍(キム・スンヨン)監督のドキュメンタリー映画チベットチベット(Tibet Tibet)』のDVDを購入して、観ました。
 在日韓国人三世で、「金森太郎」という日本名をもつ金昇龍(キム・スンヨン)という青年が、チベットに興味をもち、1998年の時点におけるチベットの姿をフィルムに記録したドキュメンタリー映画なんですけど、今回の件で初めて各メディアで詳しく報じられているチベットの現状について、さまざまな記事を読んでいてもいまいちピンと来てなかったことが、改めて実感できた部分も多かったので、このblogでもオススメしておきたいと思います。
 現在のチベット問題について、関心がある方は、当blogはてなブックマークの「チベット」タグから辿ってみてください。


 この映画を見ていると、やはりチベットの現状はかなりひどいようです。中国は人口爆発のはけ口としてチベット移住を推奨し、囚人もチベットに移住するのであれば釈放されたというほど。結果として、チベットの人口は、チベット人600万人に対して、中国人750万人と人口の比率が逆転し、チベットの経済は中国に完全に支配されてしまっている。チベット自治区の首都ラサは、観光地だけを回っていればチベットの伝統文化が残っているように見えるけれど、市街地は近代化された中国人の町になっており、そして、中国人とチベット人の間で貧富の差が激しい。
 街を映し出した光景では、現代的なファッションに身を包んだ若い中国人女性に、民族衣装を着て赤ん坊を背負った貧しげな様子のチベット人の母親が物乞いをしている映像や、中国人が経営する近代的な美容院にチベット人の一家が物乞いに現れて追い払われる様子が映し出される。チベット人チベット人というだけで就労のチャンスを奪われており、貧しい暮らしを余儀なくされている。中国人の町になる前は、ラサには物乞いの姿はほとんどなかったという。また、ストリート・チルドレンの姿も目に付く。
 そして、廃墟となったチベット寺院。チベット寺院は観光スポットとしては残っているが、チベット仏教は抑圧されており、寺院には常に中国人の監視の目があるという。そのために、僧侶や尼僧たちは自由な修行を求めて、危険な雪山を凍傷になりながら乗り越えて亡命していく者が多い。ネパールには、年間4000人の亡命者がたどり着くという。
 ダライラマ14世は、インド北部の町ダラムサラチベット亡命政府を置いている。この町には、8000人のチベット人が暮らしているのだけど、インドに亡命してきた僧侶たちに、ダライラマ14世は、「よくここまで無事にたどり着いた。本当に良かった。今ここにいるお前達はチベットの本当の主人だ」、「今こういう状態にあってお前達にとって重要なことは、しっかりと勉強することだ。チベット人、中国人と分けて考えてはいけない。我々は同じ人間なのだ。中道の精神が大切だ。今は疲れているだろうからまずはゆっくりと休め。果物などを食べる時には、腐ってないかよく注意しろ」て、ものすごく温かい、人間味に溢れた言葉をかけるんですよね。ああ、これは一生付いていきますってなるな、と。
 政治的な路線については、映画には、ダライラマ14世の語りが挿入されているんですけど、それは、



 世界中の人がそうであるように、
 チベット人も自分達の宗教、文化、民族を愛している。


 中国人達が自分達の文化や言葉を愛するのと同じ位、
 チベット人チベットを愛するのだ。


 しかし、チベット人が宗教や文化に興味を示すと、
 中国人達は、それは分裂主義だといって非難する。


 チベット人は中国を愛さねばならず、
 同化思想を持たねばならない。


 しかしそれは我々にとって非常に困難なことだ。


 まずチベットの文化や宗教を認めることができ、
 十分に自分達の意志が尊重され、
 自由を享受するようになって初めて、
 中国の良さ、文化や習慣、
 多民族国家中国への愛国心や尊重もうまれるだろう。



 ……というもので、チベットの独立を声高に主張するものではなく、チベットの文化を尊重してほしい、という中道路線なんですよね。
 とても温厚で、忍耐強く、争いを好まず平和的で、中国人の文化に対する理解も行き届いた言葉を、慎重に選んで発していく姿勢はすばらしいものだと思うんですけど、ただ、中国の強硬的な姿勢に対して、ダライラマ14世の平和的で人道主義的な姿勢はあまりに人が良すぎる気もして、ちょっと歯がゆくなってしまうことも確かなんですよね。国際社会に認めてもらって後押ししてもらうには、そうするのがベストな選択かもしれないとも思うんですけど、ただ、国際社会に注目してもらうには、この時点からさらに十年かかったことを思うと、とても複雑な思いに駆られます。


 あと、もうひとつ、この映画ですばらしいところは、チベットの人たちの素朴で素直な笑顔が見られることです。カメラを向けると、みんな寄ってきて、いい笑顔を向けるんですよね。元気のいい子どもたち姿もとてもよくて、愛すべき人たちなんだな、と思うんです。
 個人的に気に入ったのは、ダラムサラの学校で先生がチベットの歴史について話をしている授業風景で、大勢の子どもたちががやがやと教室の中にいるんですけど、ある子どもが別の子どもの背中に消しゴムか紙切れかなんか投げてる映像がばっちり映っている。子どもはどこでも変わらないんだな、と思って、笑ってしまうw
 それから、ラサで廃墟化した寺院を案内してくれた男の子と食事をする場面で、キム青年が「お父さんとお母さんはどこにいるの?」と訊くと、男の子は「スーラ」と答えて。青年はその言葉が分からなくて、どういうことかしばらくやりとりが続くんだけど、どうやら死んだっていうことだとわかって。青年が「そうか、いないのか……。(つらいことを訊いて)ごめんな」と言うと、男の子は「べつにいいよ」と言う。その口調がとても大人びたものに感じられて、どきっとするんですよね。




 というわけで、この映画は、いま、見られるべき映画だと思うんですけど、ググると、各地でこの映画の上映会が開かれているようです。
 この映画を作った「ラゴス」の公式サイトでも、『チベットチベット』の上映会を企画したいという主催者を募集しているようです。また、このサイトでもDVDを販売しているみたいですね。
 amazonその他では売ってないみたいで、ぼくはWasite.STOREから購入したんですけど、Wasite.STOREの方がちょっと高いのかな。でも、Wasite.STOREはアジア系の若い男性が経営してるWebショッピングサイトらしく、管理人画像の雰囲気とか、ちょっと応援したい感じなので、オススメしておきますw このサイトでは、沖縄音楽のCDも欲しいなw


 こういう出来事が起こると、自分も何かしなければいけないんじゃないか、という思いに駆られつつ、いろんな事情でいま積極的に動くことはできない、という方も多いと思いますし、この件についてはぼくもそうです。(とにかく忙しいっ!)
 けれど、とにかく、知っておくということは必要だと思うし、チベットの人たちもそれを望んでいると思う。そして、多くの人がこのことを知ることそれ自体がチベットの人たちにとって力になる、ということだと思うので、いや、DVDを買うようにとかってコトでもないんですけど、とにかくそのことだけ一応書いておきたいと思います。




 ダライ・ラマ14世単独インタビュー@『スタ☆メン』・その1



 ダライ・ラマ14世単独インタビュー@『スタ☆メン』・その2