アニメ『精霊の守り人』地上派放送開始/神山健治の「対話による脚本作り」



 「sHiNe」(『精霊の守り人』OP)
http://jp.youtube.com/watch?v=Y4SwTDAfpJY:MOVIE


 4月5日から、毎週土曜日午前9時放送・NHK教育テレビで、『精霊の守り人』の再放送が放送開始ですね。
 原作は、上橋菜穂子。1996年7月刊行の『精霊の守り人』(「せいれいのもりびと」と読む。「まもりびと」ではないので注意!)以来、2007年2月刊行の『天と地の守り人第三部 新ヨゴ皇国編』まで、全10冊の〈守り人〉シリーズを発表された児童文学/異世界ファンタジー。(守り人シリーズ@Wikipedia
 アニメ『精霊の守り人』は、『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』で高い評価を得た神山健治が手がけた作品で、本放送は、2007年4月7日から2007年9月29日までNHK-BS2で放送されています。ぼくはBS放送を見る環境がないので本放送では見てなくて、レンタルDVDでVOL.6/第12話まで見たところだったんですけど、レンタルで見るのはやめて、3ヶ月待ってテレビで続きを見ようかな、と思っていますw(アニメ『精霊の守り人』公式サイト作品紹介@Production I.G
 さて、この作品のおもしろいところは、ジェンダーがちょっとなんかおかしいっ! っていうところです。というのは、この作品のストーリーは、



 短槍使いの女用心棒バルサは、王妃である母の依頼で、新ヨゴ皇国の第二皇子チャグムを、単身警護しながら追っ手から逃げ続けるという危険な仕事を受ける。追っ手は、チャグムの実父である国王が放った刺客たち。
 チャグムの身には、この世と重なって存在する異世界の水の精霊ニュンガ・ロ・イム(=水の守り手〉の卵が宿っており、水妖は国の伝説で悪者とされていたので、国王は、国の威信を守るために、断腸の思いで我が子の命を奪おうとしているのである。
 バルサは、刺客たちの手からチャグムを守りながら逃避行を続けていくが、その過程で、チャグムは、さまざまなものを学んでいくのだった……


 (上記Wikiを参考に改変)



 といった感じなのだけど、腕っぷしの強い三十路女が男の子を保護することになって、母性本能をくすぐられるみたいなところがひとつと(ただし、バルサねえさんの場合、どうにも「母」という感じにはならなくて、「父」的な振る舞いになるのがおかしい)、このアニメを見てると、チャグムのお腹から青白い光が放たれるシーンが何度も出てくるのだけど、どうにも、チャグムは、妊娠しているようにしか見えないんですよねw


 たまごぉお!!!
http://jp.youtube.com/watch?v=tGbakc6Mg8U:MOVIE


 長回し映像がある映画を集めたエントリで紹介した『トゥモロー・ワールド』(監督アルフォンソ・キュアロン、2006年)では、主人公は、まったく子どもが生まれなくなった世界で十数年ぶりに妊娠した少女を連れて、政治的にごちゃごちゃな環境から脱出する過程を描いた作品なのだけど、普通はそういうジェンダーの振り分けになるところを、『精霊の守り人』は逆転しているわけです。
 おそらくこの辺りは女性作家の手になるファンタジー小説ならではの感性だと思うのだけど、かつてバルサと同居していた(恋人として付き合っていたこともある?)幼馴染みの薬草師タンダは、自分が危険な仕事をしているバルサを、ひたすら心配しながら「待つ」立場であることに苦しい思いを抱いているあたりは、現代の男女関係における「性役割の逆転」に意識的な部分なんじゃないかな、と思います。RPG風にいえば、「戦士バルサ/僧侶タンダ」になるわけですけど、タンダは主夫っぽいんですよね。で、バルサが無茶をしているのを心配している姿は女性ジェンダー化している感じがある。(RPGに当てはめれば、トーヤは盗賊、トロガイは魔術師で、チャグムは、えーと、勇者かな? サヤは……ごめんなさい。よくわかんないですw)
 まあ、そういう要素もありつつ、チャグムはやはり男の子で、チャグムが逃避行の過程で市井に生きる人々に触れるコトでどんどんたくましく成長していく様子が描かれるのが、このアニメの魅力のひとつになっている。第7話「チャグムの決意」では生きていくためにはお金がいることに気づき、第10話「土と英雄」では街の賭博師と対決し、第12話「夏至祭」では父を侮辱した大柄な異国の少年に相撲の勝負を挑んでいく……といったところなのだけど、未見の方の楽しみを奪うといけないのでこの辺で。


 神山健治が手がけた『攻殻S.A.C.』は、一話一話の情報の密度がおそろしく濃く、しかも膨大な情報がストーリーの流れを破綻させることなく、アクション/サスペンスものとして楽しめる娯楽作品として成立している、異常にレベルの高い作品で、これはおそらく、00年代のアメリカTVドラマの優れたシリーズ『24』『LOST』『プリズン・ブレイク』『トゥルー・コーリング』など)と強い同時代性を持っていると思うんですけど、神山健治は、優秀な人材を集めて制作チームを作り、通常のアニメ制作からは考えられないような準備時間をかけて、脚本作りを進めていくことで知られています。
 『精霊の守り人』の本放送前に放送された、「にんげんドキュメント「対話がアニメを作り出す〜監督 神山健治〜」」(2007年1月19日、NHK総合)を見ていたんですけど、ストーリーに穴がないか、もっとおもしろいアイデアはないのか、キャラクターの心の動きに不自然な点がないかなど、何日もかけて徹底的に討議(=ブレイン・ストーミング)していくんですよね。(「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」監督 過激なインタビュー
 で、神山健治が仕事場の壁に貼っていた、大きな張り紙に書かれた言葉が、



 刀の錆は砥石で落とす 人の錆は対話で落とす



 というもので、これは独り善がりな考え方をしがちで失敗が多いぼくにとっては、とても心に残る言葉として、いまでも覚えています。
 まあ、個人の頭の中にしかすごいものはない、会議ではいいアイデアはまったく出なくなる/むしろ潰される、という考え方もあると思うんですけど、クリエーティビティーの高い集団製作の環境を作りうることは、神山自身が結果を出すことで証明しているわけです。
 『精霊の守り人』は、『攻殻S.A.C.』ほど、あからさまに「集団製作によるすごさ」を感じる作品ではないんですけど、さにあらず。言葉や行動、決断、ちょっとした表情や態度から、キャラクターの心の動きを想像すればするほど深い味わいが得られるし、また、それに応える作品になっていると思うので―時間に余裕がある方はビデオで録画しつつ繰り返し―楽しんでください。
 というか、なにしろまだ全部見ているわけではないので、ぼくも楽しみですw






攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX 1 [DVD]

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