仙台のTSUTAYAに『アンダーグラウンド』が置いてない件について
先週末、映画の講義のレポートは、旧ユーゴスラヴィア映画で書こう、と思い立ち、何本かのユーゴ映画をレンタルすべく、仙台市内のTSUTAYAを三件回ったのだけど(おそらく市内で最も大きな店舗であろう仙台駅前店を含む)、結局のところ、どの店でも『ノー・マンズ・ランド』と『ウェルカム・トゥ・サラエボ』の二本があるだけで、他の作品は見つからなかった。
とりわけ、エミール・クストリッツァの映画『アンダーグラウンド』は、1995年のカンヌ国際映画祭でパルム・ドールを取った傑作であり、知名度の高い作品だと思っていたので、TSUTAYAの棚に見当たらないことはショックだった。三年前まで住んでいた山形の某レンタルビデオ店では、借りられたんだけどな。山形で借りられて、仙台で借りられないって、なんかおかしくないか?
これって、おそらく、TSUTAYAが棚に置いてある商品を全部DVDにしようとしている方針から生じていることで、ビデオは全部処分するか売り払ってしまうので、『アンダーグラウンド』も、DVDを入荷する前に、ビデオを処分してしまった、ということなのではないか、と思う。ぼくの近くのTSUTAYAでも、行くたびに、どんどんビデオを売却しているし(『サクラ大戦』シリーズ20本が2000円で出ていたときは、これは買わざるをえないよね、と思って、買いましたw)。
『アンダーグラウンド』は、いま、Yahoo!オークションの出品では、DVDは9500円、レンタル落ちビデオが2400円の二件きり、amazonでは、DVDが新品が売り切れで、中古の10000円からが六件と、とても手に入りにくい状況になっている。
TSUTAYAって、いま、レンタル市場をほぼ独占しつつあるチェーン店なわけだけど、そんなTSUTAYAが、文化的な価値が高い作品を、棚をすべてDVDで揃えたいという理由で(場所をとらないから、客がDVDしか借りないから、見た目がきれいだからなど、いろいろ理由はあるだろうが)、DVDを入荷する前にビデオで残っている作品を処分してしまう方針をとっている、というのは、なにかこう、この国を文化的な土台を、じわじわと貧困にしていく一因になりそうな気がして怖いのだけど、本当にこれでいいんだろうかと、不安に思う。
この話には、まだ先がある。
で、駅前のTSUTAYAまで行って、『アンダーグラウンド』も『パーフェクト・サークル』も『ボスニア』も借りられなかったぼくは、そういえば、ウチから大学に行く途中に、なんか小さなレンタルビデオ屋があったよな、ということを思い出して、その店に足を運んでみた。
その店は、ラーメン屋の隣にある小さな店で、「レンタルビデオ」という看板があるだけで、店名はどこにも書かれていない。店内に入ってみると、狭い店内に置かれているのはビデオだけで、客が一人もいないのはもちろん、カウンターにも誰もいなくて、「誰もいない場合はしばらくお待ちください」というプレートだけ置いてある。けれど、ぼくはこの店には何度か入ったことがあるのだけど、店員がいたことはないし、小一時間ほど、棚を見繕っていたときも店員が現れたことなど一回もなかった。
まあ、ぼくも結局その店でビデオを借りたことはなかったから、詳しいことも知らずにいたのだけど、今回はなんとですね、あったのですよ、『アンダーグラウンド』が!!! で、今日は借りようと思ってしばらく店員を待っていたのだけど、当然待っていても店員は現われないので、なにか情報はないかとカウンターのあたりを調べてみると、よく見ると、件のプレートに、「御用の方は、隣のどさん子ラーメンまで御連絡ください」と書いてある。
おいおい、ラーメン屋と繋がってたのかよ……と思って、どさん子ラーメンに行くと、ラーメン屋のおやじさんがどこかに電話をかけて、「今来るから、待っててよ」とのコト。で、レンタルビデオ店に戻って待っていたのだけど、カウンターの奥の方から店員さん(というか、おそらくラーメン屋のおやじさんの奥さん)が現れるかと思ってたら、客用のドアから普通に入ってきてw
で、『アンダーグラウンド』を手渡して、「借りたいのだけど、今まで借りたことがないから、カードを作りたいのだけど、身分証明書は免許証でいいか」と聞くぼくに対して、おかみさんが言ってることがなんだかおかしい。
「借りてもいいけど、買いませんか」というのだ。
「いま、ウチ、欲しい人に一本300円で譲ってるんですよ。ですから300円で買いませんか? それとも借りますか? 借りるなら200円。買うなら300円」
「借りるなら200円。買うなら300円」ってw それで「借りる」ってやつはいないだろw
ええっ!? と思って、ぼくは言ったさ。
「そりゃぼくは安く手に入れられて嬉しいですけど、この映画って、傑作なのに、今日、TSUTAYAを三件探して見つからなかったやつなんですよね。ぼくが買っちゃったら、もう仙台で借りたいって思った人が借りられなくなっちゃうので……」
それに対して、おかみさん。
「ああ、たしかにウチ、珍しいのがあるってよく言われるんですけど、でも、もう、このお店閉めてしまうつもりなので……」
閉店しちゃうのか。なるほど、それで納得。まあ、流行ってないのはぱっと見わかるし、採算が合わなくなっちゃったんだろうけど、でも、こういう小さなお店は、もともと数少ないお客さんを相手にやってきていたはず。それが維持できなくなっちゃたっていうのはなぜだろう、とも思うのだけど、
「いま、もうみんなDVDだから。ビデオ、見ないので」
という口ぶりからするに(また、店内に『ロード・オブ・ザ・リング』とか『キル・ビル』とか『マトリックス』とか話題作・人気作がビデオで置かれていたことから察するに)、ユーザーのビデオ離れとDVDへの移行が、この店にとって、最後の決定的な打撃になったのではないか。
なんだかねえ……。その日一日すごしてみて、複雑な思いに駆られましたよ。
ユーザーがビデオからDVDに移行したために、TSUTAYAでは、ビデオを棚から処分する方針を定めて、あまり知られていないかもしれないけれどたしかに名作であるような作品を、DVDが入荷する前にビデオを処分してしまっている。TSUTAYAのクソ方針のせいで、ビデオだけ扱っているために名作がまだ棚に残っていた店が、町のレンタル店の中で貴重な存在になっていたのに、結局その店も閉店に追い込まれていく。
こうしてこの国の文化はどんどんじり貧になっていくわけだけど、こうして背景が見えてくると、だんだん必ずしもTSUTAYAだけが悪いというのでもないような気もしてくる。誰が悪いったらユーザーが悪いんじゃないか? いや、ユーザー(=一般市民・大衆)は昔からずっと大勢は「バカ」だったのだから(いやおれも「バカ」の一人なんだけど。ハリウッド映画、好きだし)、そのことを前提にした上で、文化的な土台も守っていくことが、TSUTAYAみたいな文化的事業を行う大手業者の使命だったはずだから、やはりTSUTAYAが悪いのかも。
まあ、誰が悪いとかはともかくとしても、いずれにせよ、この流れは止まらないのだろうな、ということはわかるし。なんだか気分が沈む一日だったのであった。
話は、さらにもう少しだけ続きます。
で、とにかくその日は財布の中身が寒かったので、『アンダーグラウンド』だけ買って帰ったのだけど、まだまだ貴重な作品が残っていることに気付いていたので(とりわけ『ミツバチのささやき』と『戦争のはらわた』)、月曜日と火曜日は研究室で寝ずに旧ユーゴスラヴィア映画についてのレポートを原稿用紙40枚分くらい書いて、レポートを無事提出。で、火曜日の夕方にまたそのお店に行ってみたところ、ドアに、
定休日
のプレートがw
この店にも定休日だなんて高級なものがあったのかっ!!!
つか、どさん子ラーメンは普通に営業してるじゃんっ!!! なんでレンタルの方だけ休みなんだよっ!!!
と思って、めちゃくちゃおかしかったのだけど、次の日に行くと店はちゃんと開いていて、ヴィクトル・エリセ『ミツバチのささやき』、サム・ペキンパー『戦争のはらわた』、アッバス・キアロスタミ『オリーブの林をぬけて』『そして人生はつづく』、アンドレイ・タルコフスキー『惑星ソラリス』といった作品のビデオを九本ほど、すべて300円で購入。
映画好きの読者なら、「この値段で買えるんだったら、たとえすでにDVDやビデオを持ってたとしても、普通買うでしょ!」という気持ちを理解してくれると思うのだけど、もうね、この値段で欲しかった名作が手に入ると思うと店内を物色している間中、胸のどきどきが止まりませんでしたよ。
キューブリックやらリンチやらジャームッシュやら北野武やら、店には名作・傑作のビデオがまだまだたくさん残っているので、その店の場所を教えろっという方は、教えますので、メールをくださいませ。ぼくも『ダウン・バイ・ロー』を買うために、また行って来ます。
いや、しかし、なんだか無駄におもしろい体験でしたw
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