佐藤祐市監督『キサラギ』



 一年前に自殺したB級アイドル如月ミキの追悼会兼ファンサイトのオフ会で、初めて顔を合わせた五人の「自称ファン」の男たちが、「如月ミキは本当は他殺だったのではないか?」と死因を突き止めるべく議論していくうちに、事件の「真相」が二転三転していく、一幕もののミステリー映画。小栗旬ユースケ・サンタマリア小出恵介香川照之ドランクドラゴン塚地といった俳優陣がそれぞれ好演しており、笑えるし、演じてる本人たちも楽しかったんじゃないかなと感じさせる良作だと思う。


 けれど、この映画の最大のポイントは、なにより「B級アイドルとそれ支えるアイドルオタたちが激イタだ」ということなんだろうというのが、映画をすべて見終わった後、腹を抱えて笑い転げながら思う感想だ。この映画って、本当に、脚本が巧みに作り込まれていて、二転三転するプロットもよく練られている、挿入されるユーモアのセンスも冴えてるし、優等生的とさえ言えるほど優れた、質の高い映画だと思うのだけど、「でも今文化としての熱気があるのはアイドルの方だよね」という羨望の感情が、作り手たちの中には絶対にあると思うのだ。B級アイドルカルチャーって本当に、アイドルは歌はへただし、楽曲もひどいし、振り付けも衣装も本当にプロがやってるのかって疑われるほどセンスが悪いし、はっきいってアイドル自体そんな美人ってわけでもないだろってツッコミを入れたくなる。そんなアイドルを支えるファンたちもまたどんなセンスなのかさっぱりわからないし、なんであんなひどいB級アイドルに人生かけるほど思い入れられるのか理解の範疇の外だっていうのが、まあ外部から見た一般的な感想だろうと思う。でもだからこそ、なのかどうかはよくわからないけれど、そこには半端ではない熱量が投入されていて、彼らの姿にみっともないなあと思いつつ、同時にうらやましさを感じてしまう。そういう感情って文化的なことにかかわる人たちは一度は抱いたことがあるのではないか。


 で、「文化としての熱量が高いのは、絶対映画よりもアイドルの方だよね」という点において「映画は負けている」という認識を、僕はこの映画の中に認めたのだけど、それはちっとも自虐的でもなければ後ろ向きでもなく、もちろんアイドル文化に対して揶揄的でもなくて(まあ少しは揶揄的かもしれないけれど)、潔く負けを認めつつ、映画も熱を取り戻していかなきゃならないんだという前向きさが感じられて、実に好印象な映画だったのだ。




 ナナカナ「ほっぺにChuChu

 如月ミキ役の酒井香奈子は、声優&アイドルで、現在アイドルユニット・ナナカナとして活動中。最初見たときさほどひどいとは思わなかったんですけど、やっぱりひどいかな。音痴だし(気のせいです)。


 如月ミキ「ラブレターはそのままで」

 これってオチなんで、映画を楽しみたい人は見ないように。