ヘヴン



 読み終わりました。これはとてもよかったし、いい作品だと思いました。


 今回、一気に読むのではなくて、一日かけて、その合間に食事したり、出かけたりして、その間に甥っ子と遊んだりしながら、読んだんですけど、いじめの話なんですよね。
 なので、すごく痛ましくて嫌な気持ちで読み進めることになるし、主人公に感情移入して、作品世界にどっぷりはまりがちだと思うんですけど、二〜三度間を起きながら、距離を取って読んだことは、結果的によかったのかなと思ってます。


 というのは、いじめの話だけどいじめの話ではないんですよね。いじめは題材にすぎなくて、川上はとても普遍的なことを語ろうとしている。
 「正しさ」では計れない世界のルール、価値観の決定的な断絶、人間の絶対的な孤独とコミュニケーションの希求、世界の多層性、すなわち価値観の異なる人間が一つの出来事を体験しているはずなのに、しかし実はまったく体験を共有していなくて勝手に生きているということ、誰かにわかってほしいという思いとその不可能性、生きていくために必要な心の持ちようみたいなもの……。


 そこでは、「世界」の不思議さのありようの手触りがていねいに言葉に置き換えられているように思ったし、川上はおそらく時間をかけて、冷静に書いていると思う。
 この世界は複雑でよくわからなくて、どうやらあるルールで動いているらしいけれど、自分との間には齟齬があるし、ルールは一つなのかも、あるルールが正しいのかもわからない。


 「世界」のわからなさ、そして他者のわからなさは、ていねいに掬い上げられていたと思うし、そしてそれらはいじめを題材にしたことでくっきり浮かび上がっているのだけど、いじめに限らなくて、人々が体験する普遍的なものだと思う。
 それで、ぼくは主人公兼語り手の思いをかなりの程度共有して読んだのだけど、でもあまりに感情移入してしまうと見えなくなるものが多い小説でもあると思うんですよね。


 一歩引いたスタンスで読んだときに、いろんなところを押される小説だと思うし、それこそ身体についてのていねいな描写も多くて、読みながら触られてるように感じる文章もあったり(髪の場面ですね)。なので、一日かけて読めてよかったです。


 読書会でみんなで読みたいんですけど、しばらく「特別」の引き出しに入れておきたい気もするし、悩みますね。