『らき☆すた』&『げんしけん』―オタク男子とオタク女子は付き合っちゃえばいいじゃん



らき☆すた 10 通常版 [DVD]

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げんしけん(8) (アフタヌーンKC)

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 『らき☆すた』と『KANON』を組み合わせた、こんな動画がある。


 KANONとこなた@YOU TUBE
 http://www.youtube.com/watch?v=h86kc2rx0Lw



 『KANON』の主人公相沢祐一とヒロイン月宮あゆのデート風景に、『らき☆すた』のオタク少女泉こなたの映像と声をうまくかぶせて、こなたが男の子とデートしているという『らき☆すた』ではなかった風景を作ってみせている。感心したのは、かねてから疑問を抱いていた「オタク男子とオタク女子は付き合えるのか?」という命題に一つの答えを与えてくれそうなMADだったからで(相沢祐一はオタク男子じゃないけど)、へえー、けっこう楽しそうじゃん、意外といけんじゃない?、と思ったのだ。


 『らき☆すた』のファンの間では、数ある女の子キャラの中でもオタク少女泉こなたが一番人気で、こなたと付き合いたいというファンがかなりいるという話を知ったとき、面白いな、と思った。背が低く幼児体型で、終始一定した低いトーンの声で、マイペースなオタクトークを繰り広げるこなたの老子のごとき達観した雰囲気は、「師匠」とか「先生」とか呼びたくはなっても、「付き合いたい」とか「彼女にしたい」とかいった感情とは結び付かないキャラだと思っていたからだ。
 なぜオタク男子はこなたと付き合いたいと思うのか。「らき☆すたのこなたみたいな彼女欲しいんだが」という2chのスレッドを見てみよう。


 らき☆すたのこなたみたいな彼女欲しいんだが@アルファルファモザイク(元は2chのスレッド)
 http://alfalfa.livedoor.biz/archives/51033794.html


 らき☆すたのこなたみたいな彼女欲しいんだが2(2chのスレッド)
 http://anime2.2ch.net/test/read.cgi/otaku/1187168872/


 前者には、こんな書き込みがある。



 71 おたく、名無しさん? :2007/05/09(水) 07:28:18
 こなたみたいに空気が読めて礼儀正しい腐女子なら彼女にしたいんだが、
 実際何人かの腐女子と付き合った身としては、あそこまでクールな子はいないと思う・・・


 リアル腐女子って一見クールに見えても、スイッチ入るとメチャクチャ激情型に
 なったりするから、ぶっちゃけ怖かったよ・・・
 変に演じてるっぽい感じの腐女子はマジで注意だぞ。


 はぁ、俺もこなたみたいな子と色々語り合いてぇなあ・・・



 これなんかは実感がこもっていていい。何度も痛い目にあっていて、なお希望を捨てていないところがw まあ女の子は深く付き合うとどこかでそういう面を見せるものなのではないかと思うのだけど、そういう嫌な面を知りつつ、「こなたみたいな子と色々語り合いたい」という欲求は、そうしたマイナス面を凌駕するほど強いものであるらしいこともわかる。
 ここからは、たとえば「こなたみたいな女はいるのか?」という問題が浮かび上がると思うのだけど、2chなどを見ている限りでは、少なくとも一時期、オタク男子は腐女子を徹底的に嫌い抜いていたように思う。趣味の対象が重なっているようで微妙に違っていたり、『機動戦士ガンダムSEED』のようにアニメが腐女子向けに展開することに怒りを感じたり、オシャレに気を遣うオタク女子がまったく気を遣わないオタク男子に引いたり(最近のオタク女子はかわいくなった。blog「ヲタだって可愛くなりたい」。http://ameblo.jp/meiren-up/)、といったことがあり、緊張関係があったように思う。最近は多少緊張は解けてきたような気がするのだけど、それでもなおかつ腐女子を嫌悪するオタクは多いようだ。
 こなたスレにも、こんな書き込みがある。



 88 おたく、名無しさん? :2007/05/11(金) 15:59:35
 すまん、オタ女と腐女子の違いが分からないんだが、誰か分かりやすく教えてはくれまいか?


 90 おたく、名無しさん? :2007/05/11(金) 19:17:35
 オタ女はオタクの女。腐はBLものが好き。



 「オタク女子と腐女子が違うものなのか?」という点は、この話題においては重要なポイントだと思うのだけど、90さんの説明は根本的なところで間違ってると思う。こなたファンの間では、こなたは腐女子とは違うのだ、オタク男子と同じように純粋にオタク趣味をもつ貴重な存在なのだといった意見が交わされることがあるのだけど (こなたのような女は実在するか?@アルファルファモザイクhttp://alfalfa.livedoor.biz/archives/51061858.html)、オタク男子がオタク女子と腐女子を分けたがる傾向はたしかにあって、しょこたんは「オタクの女の子」として、いまやオタク界のスポークスマン的な存在だけど、彼女は腐女子的な側面は表には出してなくて、それはオタクがしょこたんを屈託なく応援できる、実は意外と大きなポイントになっているように思う。けれど、本当はオタク女子と腐女子って分けられるものではないはずで、腐女子だって普通のオタク男子と同じで、ゲームをやったり、アニメを見たり、マンガを読んだりしているはずだし、違いといえば、腐女子に特有の萌えポイントとして「やおい」があるという、ただそれだけのことなはずだ。
 こなたがかわいい女の子を見て、「うおー、萌えだ」と言ったりする「男の視線」も、実は腐女子はオタク男子と共有していて、BLも百合も好きだし、なによりかわいい女の子キャラが好きだという腐女子は多い。そういう現実というのは実際にオタクの女の子とある程度付き合いがあるオタク男子であれば知っているはずで、71さんが付き合った女の子を腐女子といってるのは、オタク女子が腐女子がイコールであることを知っているからだろうと思う(その上で、こなたみたいなクールな性格の子がどこかにいないものかと言っている)。そもそもこなただって、作中で「あやしい同人誌をたくさん持っている」ことをほのめかしているわけで、絶対に腐女子でもあるはずなのだ。(しょこたん腐女子「でもある」はずだけど、現実に存在する一女性なので断言はできないです。どこにでも例外はあるし)
 オタク男子のこなた讃美を批判するテキストとして、以下のようなものがある。



 「らきすた 何故こなたファンはキモイのか」@はてな匿名ダイアリー
 http://anond.hatelabo.jp/20070606231448


 「こなた=オタクが彼女にしたい女の子」という感想をネットでちょくちょく見かけるのだが
 まずはそこから一歩進めたい。つまるところ何故オタクはこなたを理想とするのか?である。
 記号的な嗜好とか個々で主張したいことはあるかもしれないけど、とりあえずスゲエ乱暴にくくると
「自分の趣味を理解してくれる可愛い女の子」だから、っていうのがその結論。


 (中略)


 で、話を戻すと
「こなたは美少女化したオタク男である」といえる。
 だからこそオタクはこなたを理解できると思うし理解されると思う。それはそうだろう自分の相似形なのだから。


 ぶっちゃけた話お前ら自分が好きなだけじゃん、と。



 これはたしかに「乱暴」な批判だと思うし、全面的に支持するわけではないけれど、こなたファンがこなたを「美少女化したオタク男」として自己を投影しているのだとすれば、彼らがオタク女子と腐女子を分けたがることに、なんとなく説明が付けられるように思う。つまり、彼らは腐女子という自分に理解できない他者に向き合おうとしないタイプのオタク男子なのではないか――まあ、こういう言い方もかなり紋切り型なのだけど。
 しかし、2007年の現時点では、一時期よりはオタク男子と腐女子はかなり歩み寄ってきたように思う。一番両者の対立がひどかった『ガンダムSEED』の放送が2002年で、けれど、同じ時期に連載が開始された木尾士目のマンガ『げんしけん』では、腐女子である荻上千佳が経験した「憧れていたクラスメイトの男子をネタに描いたやおいマンガがクラス中にばらされて、憧れの男子はショックで転校してしまう」などというエピソードを挿入しつつ、主人公のオタク男子笹原と萩上の、「笹原が『萩上が腐女子であること』を受け入れた上での恋愛」が語られる。blog発で書籍化もしたぺんたぶ『腐女子彼女。』(blog「腐女子彼女。パート2」。http://pentabutabu.blog35.fc2.com/)、小島アジコ『となりの801ちゃん』(blog「となりの801ちゃん」。http://indigosong.net/)は、非オタク男子と腐女子の恋愛が語られるノンフィクションで、オタク男子と腐女子の恋愛ではないけれど、まあ腐女子に対する社会的な認知と受け入れの下地というのも、オタクの受け入れから若干遅れつつ(『げんしけん』では、春日部咲と斑目の関係において「一般女性によるオタク男子の受け入れ」という『電車男』的なテーマが語られている)、進みはじめているように思う。
 そんなわけで、今後は、昔よりはオタク男子は腐女子は嫌だとかこだわらないでオタク女子と付き合うようになっていくのではないかなあ、と思うのだけど、ただし、オタク男子がこだわらなくなっても、この世には「先方の都合」というのもあることを忘れてはならない。
 なにやらこなた先生も、このように仰られてるというし。



「オタクの男子は話や趣味の合うオタクの女子を彼女にしたいとか掲示板で結構見るけど、オタクの女子からはオタクの男子と付き合いたいとか全然聞かないよね。何でだろう?」 (『らき☆すた』20話「夏の過ごし方」)



 自分のことを棚に上げて、客観的な分析として語っているところがこなたの「オタク女子」たるゆえんなわけだけど、まあオタク男子が「オタク男子」というカテゴリーに入っていることでもてる、なんてことはないわけで。『電波男』の本田透は「もてようなんてのはオタクのアイデンティティーを捨てる裏切り行為だ」という論調だけど、そんな「モテの魔からの護身」なんていってる遠くに行ってしまった人のいうことなんか気にしないで、ここはひとつ、こなた先生のためにも(先生はわれわれのことを心配してらっしゃる)、オタク男子は自分たちのイメージアップに少しずつでも取り組んでいくべきなんじゃないかなと、僕もまた自分のことは棚に上げつつ、思う。