青春の最後の輝き―『冒険者たち』とネット上の勇者たち
北野武『キッズ・リターン』予告編(1996)
北野武『キッズ・リターン』(1996)のラストシーンで、高校卒業後の数年間で追った夢が潰えてしまった主人公の若者ふたりが、母校の高校の校庭を自転車でぐるぐる回りながら、「俺たちもう終わっちゃったのかな?」「バカヤロウ! まだ始まっちゃいねーよ」という会話を交わすんですけど、「まだ始まっちゃいねーよ」と言ってられるのは、いったい何才までなんでしょうね?
「『青春』って言ってられるのは、いったい何才くらいまで?」という話なんですけど、ぼくはなんかいまだに青春している」という感覚がありますね。家庭をもってないし、大学にいますからね。モラトリアムの期間がめちゃくちゃ伸びてしまっている。25才くらいの子に「同い年くらいだと思ってました〜」とか言われますし。オタクはいつまでも気持ちが若いから、見た目も年を取らないんです。
でも、もう30前後なんですよ〜。いかに現代ではモラトリアムの期間が長くなっているといっても、もう青春とか言ってられる年でもないわけで、ぼくが高校の校庭で自転車でぐるぐる回りながら、「まだ始まっちゃいねーよ」とか言ってたら、それは正直、「かなり微妙」なわけじゃないですか。海は死ぬわけじゃないですか。
人はみんな平等に年を取っていくから、嫌だと思っていても、いつか必ず青春の時代を卒業して、大人になっていかなければならないわけです。
いま、実行する気は少しもないのに、ふざけてネットで「ギリギリ」の犯罪予告をして逮捕されている(2ちゃんねるで、“存在しない駅”で「殺しまくる」と予告の男逮捕 「犯罪にならないと思った」@痛いニュース(ノ∀`)、「小女子焼き殺す」 2ちゃんねるに殺害予告をした23歳無職を逮捕…「小女子(こうなご)は小魚だ」と否認@痛いニュースニュース(ノ∀`))のは、ほぼ例外なく実家にいる無職の男性ばかりなんですけど、ぼくは彼らの気持ちはよくわかるんですよね。社会が嫌なんですよ。社会に出たくないし、大人になりたくないんです。社会は間違ってると思っているし、汚れた社会が嫌いだから、ネットで社会悪を追求するし警察やマスコミといった社会的権威を嘲笑する。それは彼らがある意味ではとても純粋だからなんです。
でも、純粋なままでは生きていくことはできない。ぼくはもう、人はいつまでも青春の時代にいられるわけじゃないということはわかっているし、大人の世界に入っていく準備をしている真っ最中なんですけど、いま社会復帰のステップとして所属している大学での生活がめちゃくちゃ楽しいし、まあ「青春を楽しんでいる」と言えるかな、と思う。
で、今日、こういう時代のことを何というかゼミの先生の教えてもらったんですけど、「青春の最後の輝き」というんですね。
青春の最後の輝き。あまりに懐かしい響きの言葉なので、この言葉を聞いた瞬間みんな笑ってたんですけど、でも、いい言葉ですよね。
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それで、いい年をしたオヤジたちが青春の最後の時代に夢と冒険とロマンを追い求めた映画として、『冒険者たち』(1967年、監督ロベール・アンリコ、主演アラン・ドロン)という映画があることを教えてもらったんですけど、これぞ青春!これぞ冒険!「冒険者たち Aventuriers」1967年」@音魂大全にも、「これぞ青春映画です。しかし、登場人物はそう若くはありません。どちらかというと悔いなく生きた青春時代の終わりを描いた青春時代後期の物語というべきでしょう」とありますね。
「これぞ青春映画です。しかし、登場人物はそう若くはありません」、「青春時代後期」……いいですね、ぼくも今度から使おう、「青春時代後期」。
この手の映画として日本でパッと思いつくのは、宮崎駿の『紅の豚』くらいですかね。フォークグループのアリスが歌っていたのはいつも「青春の最後の輝き」だったという話も教えてもらったんですけど、「青春の最後の輝き」って、団塊世代が言ってた言葉なんでしょうね。彼らは日本で初めて一生を青春の時代から抜け出すことなくすごした世代ですからね。
で、団塊ジュニアの世代がいま30を越えたくらいで、青春時代の終わりを迎えているのは確実なんだけど、就職難直撃のロストジェネレーション世代だから、どう見ても輝いてはいなくて、どうでもいいことで逮捕されているというのは、なんていうか、まあその、ねえ……。
でも、まあ、くすんじゃってるのも現代の青春模様の特徴なわけじゃないですか。
そういう意味では、団塊ジュニア世代/ロストジェネレーション世代の無職青年によるネット犯罪予告チキンレースの冒険者ぶり/勇者ぶりも、「青春の最後の輝き」と申せましょう。
アリス「今はもうだれも」(1975)